DX(デジタルの技術を使った仕事の変革)や生成AIの活用は、ここ数年、昇格・昇任論文でも見かけるようになったテーマです。新しい話題なので、何を書けばよいか迷う人が多いテーマでもあります。

よくあるのは、「AIを活用して業務を効率化する」「DXを推進する」で終わる論文です。この記事では、技術の話ではなく、仕事の課題の話として書くための材料の集め方を説明します。

※この記事に出てくる職場と例は、説明のために作った架空のものです。論文の決まりに合わせ、そのまま写せる段落や全文の見本は載せていません。特定の製品やサービスは扱いません。

このテーマで読み手が見るところ

DXの論文を読む人が知りたいのは、受験者がどれだけ技術にくわしいかではなく、職場の仕事を変えるときに、人と順番をどう扱うかだと考えられます(推測)。技術の説明が長い論文ほど、その肝心な部分が薄くなります。

「DX」「AIの活用」という言葉は、そのままでは何も言っていないのと同じです。論文の中で使わなくてもかまいません。使うなら、すぐ後の文で「どの仕事の、どの手間が、どう変わるか」に言いかえます。

技術ではなく業務の課題から書く

材料は、「何の技術を使うか」からではなく、「職場の仕事のどこで困っているか」から拾います。そのうえで、デジタルの手段が役に立つかを考えます。

拾い方の一つは、1週間だけ自分の仕事の時間をメモすることです。次のような時間に印を付けておくと、デジタルで変えられそうな手間が浮かび上がります。

印を付ける時間 メモのしかた
同じ操作を繰り返した時間 何の作業で、1日に何回、何分ほどか
物を探した時間 書類、ファイル、過去のメールなど、探した物と分数
人を待った時間 誰の返事や判こを、どれくらい待ったか
同じ説明をした回数 誰に、何を、何回説明したか

見つけた問題は、時間や件数で書き留めます。「業務が非効率だ」ではなく、「毎月、申請書の内容を台帳に書き写す作業に、係で合わせて30時間ほどかかっている」のような形です。

課題が見えたら、手段を考えます。手段はデジタルに限りません。書き写しをなくすには、そもそも台帳が要るのかを見直す、という手もあります。手段を比べたうえでデジタルを選んだと書けると、技術ありきでないことが伝わります。

試す範囲の決め方

新しい仕組みは、いきなり職場全体に広げると、うまくいかなかったときの影響が大きくなります。論文でも、最初にどこで試すかを書くと、計画の現実味が増します。

試す範囲は、次の3つを満たすものから選びます。

  • 前と後を測れる:時間や件数を、試す前から記録できる
  • 元に戻せる:うまくいかなければ、すぐ今のやり方に戻れる
  • 関わる人が少ない:係の中や、一部の取引先だけで完結する

「最初の3か月は、申請書の書き写しの作業だけで試す」のように、期間と範囲を書きます。続けるか、やめるか、直して続けるかを、どの数字で決めるのかまで書けると、さらに具体的になります。

人の育成と抵抗への対応

デジタルの仕組みを入れると、慣れた人ほど戸惑うことがあります。「今のやり方で困っていない」「覚える時間がない」という声も出ます。技術の話ではなく人の話を書けるかどうかが、管理職の論文らしさにつながります。

壁 越え方の例
覚える時間がない 使い方を短い手順にまとめ、最初の1か月は質問の時間を週に1回取る
今のやり方で困っていない 書き写しにかかっている時間を数字で見せ、浮いた時間で何をするかを話し合う
失敗が怖い 試しの期間は、今のやり方と並べて使い、間違いを責めない
得意な人に質問が集まる よくある質問と答えを係で書きためて、誰でも見られる場所に置く

浮いた時間を何に使うかを書くことも大切です。仕事を減らすだけでなく、お客さまへの説明や、若手の育成に時間を回す、と書けると、変化の目的が見えます。

情報の扱いと決まり

デジタルの仕組みや生成AIを使うときは、情報の扱いに気をつける必要があります。論文でも、この点に一言ふれると、目配りが伝わります。

  • 個人情報や社外秘の情報を、どこまで扱ってよいか
  • 生成AIの出力を、誰がどう確かめてから使うか
  • 勤め先の決まり(情報の扱い、生成AIの利用の決まりなど)に沿っているか

論文の準備そのものに生成AIを使うときの線引きは、昇格論文にAIを使ってよいかで説明しています。

具体的な決まりは、会社や自治体によって違います。論文では、自分の職場の決まりに沿って、確かめの手順を作る、という書き方にとどめます。法令の解釈を書く必要はありません。

コンプライアンスを中心に書く場合の組み立ては、昇格論文のテーマ「コンプライアンス・不祥事の防止」で説明しています。

役職による書く範囲の違い

同じDXのテーマでも、受ける役職によって、論文で動かす範囲が変わります。

受ける役職 書く範囲の目安
主任・係長 自分の係の一つの作業を変える。試しの段取りと、係の人への教え方
課長 複数の係の仕事の流れを変える。予算や他部署との調整、試した後の広げ方

主任・係長の論文で、導入する仕組みの選び方や予算の話を中心に置くと、自分の係で何をするのかが見えにくくなります。課長の論文で一つの作業の工夫だけを書くと、範囲が狭く見えます。

数字が手元にないときの見積もり

書き写しや探し物の時間は、記録が残っていないことが多いものです。その場合は、1件あたりの時間と件数をかけて見積もります。

たとえば、1件の書き写しに5分ほど、月に400件ほどなら、月に30時間を超える計算になります。こうした見積もりは、「1件5分ほど」のように根拠と一緒に書けば、論文の数字として十分使えます。正確さより、問題の大きさが伝わることを優先します。

効果の示し方

効果は、時間、件数、ミスの数など、測れるもので書きます。

  • 作業時間:月30時間かかっていた書き写しを、半年後に10時間にする
  • ミス:書き写しの誤りを、月5件からゼロに近づける
  • 職場の変化:浮いた時間で、窓口の待ち時間を減らす

効果には、いつまでに、を付けます。業務改善のテーマと重なる部分が多いので、効果の示し方は昇格論文のテーマ「業務改善・生産性向上」も参考にしてください。

架空の例:材料の整理表

建材の卸売会社の営業事務で、係長を目指すQさんは、次のような表を作りました。

項目 Qさんの職場の材料
問題 取引先からの注文のメールを、受注の表に手で書き写している。係で月に40時間ほど。書き写しの誤りが月に4件ほど
原因 注文の書式が取引先ごとにばらばらで、表への入力が人手に頼っている
手段の比較 取引先に書式をそろえてもらう/読み取りの仕組みを使う。まずは書式の統一を主要な5社に頼み、その5社で読み取りを試す
試しの範囲と期間 主要な5社の注文だけ、3か月
壁と越え方 ベテランが手で入れる方が早いと考えている → 書き写しの時間を一緒に測る
情報の扱い 取引先の情報を扱うので、社内の決まりに沿うかを情報の担当に確かめる
効果 書き写しの時間を半年で半分に。浮いた時間で、納期の問い合わせへの返事を早める

元の文と比べると、違いは1文でも見えます。

  • 前:DXを推進し、業務の効率化を図る。
  • 後:主要な5社の注文の書き写しを3か月試しに自動にし、時間と誤りの数を確かめる。

この後に何を書くかは、表の行から自分で組み立てます。

Qさんが表を作る前に考えていたのは、「受注の仕組みを新しくする」という一行だけでした。表にしてみると、まず取引先に書式をそろえてもらうという、費用のかからない手が先にあることに気づきました。手段を比べた行があることで、論文の中でも、技術ありきで選んだのではないことを示せます。

よくある書き方と直し方

  • 今の手間の数字がない:導入した後の姿だけを書くと、どれだけ良くなるのかが伝わりません。書き写しに月何時間かかっているかを、現状の段落の最初に置きます。
  • 効果が「便利になる」で終わる:便利さは読み手には測れません。前と同じものさし(時間、件数、誤り)で、いつまでにどうなるかを書きます。
  • 浮いた時間の行き先がない:時間が減っただけでは、職場が何を得たのかが見えません。浮いた時間を、顧客への対応や育成など、どの仕事に回すかを1文添えます。
  • 試した結果で判断する場面がない:試しっぱなしに見えます。続けるか、やめるかを決める数字と時期を書きます。

どれも、技術の中身にはふれていません。DXの論文でも、直す場所は、仕事の数字と人の動きです。

書いたものを見てもらうには

新しいテーマは、読む人によって受け止め方が分かれやすいものです。仕事でデジタルの道具に慣れている人ほど、書いたものが技術の説明に寄っていても、自分では気づきにくくなります。

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