IT企業の昇格試験では、エンジニアとして積んできた実績を、管理職としての力に結びつけて話すことが求められます。技術の話は得意でも、それを組織への効果として語るのは別の準備が要ります。

この記事では、技術の実績をマネジメントの言葉に置きかえる方法と、面接や論文で気をつけることを説明します。特定の会社の試験の中身は扱いません。

※この記事に出てくる会社、人物、例は、説明のために作った架空のものです。

IT企業の昇格試験でよくある形式

昇格試験の形式は会社によって違いますが、IT企業でも、ほかの業種と同じく、次のような形式の組み合わせが考えられます(推測)。

  • 実績や今後の目標をまとめた書類(自己申告書、昇格の推薦書など)
  • 役員や部門長との面接
  • 論文や小論文(技術の動向や、組織の課題をテーマにしたもの)
  • いわゆるインバスケット形式の演習や、グループ討議などのアセスメント

どの形式でも、問われるのは「技術者として何ができるか」から「組織として成果を出すために何をするか」への視点の移り方だと考えられます(推測)。自分の会社の形式は、人事の案内や、昨年受けた先輩の話で確かめます。

技術の実績を組織への効果で語る

エンジニアの実績は、技術の言葉で書くと、評価する側に伝わりにくいことがあります。面接官や論文の採点者が、技術の詳しくない役員や他部門の管理職であることもあるからです。

技術の実績は、次の3つの効果のどれかに置きかえて語ります。

効果 置きかえの例
お金 開発や運用の費用が減った、売上につながる機能が早く出せた
時間 リリースまでの期間が短くなった、障害からの復旧が速くなった
リスク 障害の件数が減った、セキュリティの問題を事前に防いだ

たとえば、「テストを自動化した」という実績は、そのままでは技術の話です。「テストの自動化で、リリース前の確認に3日かかっていたのが1日になり、月に2回出せるようになった」と言いかえると、時間の効果として伝わります。

もう一つ大切なのは、自分の技術の力ではなく、チームの力をどう上げたかを語ることです。昇格試験で見られるのは、一人の優秀なエンジニアとしてではなく、人を動かす立場としての動きだと考えられます(推測)。

プロジェクトの問題の材料

プロジェクトの経験は、管理職の材料の宝庫です。とくに、うまくいかなかったプロジェクトの経験は、面接でも論文でも使いやすい材料になります。

材料を集めるときは、次の4つの問いに答えます。

  1. どんな問題が起きたか(遅れ、品質、予算、人の問題)
  2. 原因は何だったか(見積もり、要件の変更、人の偏り、連絡の行き違い)
  3. 自分は何をしたか(誰に何を頼み、何を決めたか)
  4. 次のプロジェクトで何を変えたか

3の答えが「自分で夜遅くまで直した」だけになっていないかを確かめます。担当者としての頑張りは伝わりますが、管理職の視点としては、誰に任せ、どう仕組みを変えたかが見られやすいと考えられます。

育成・採用の材料

IT企業では、技術者の育成や採用、定着が課題になりやすい職場が多いと考えられます。昇格試験でも、部下や後輩をどう育てるかは、聞かれる前提で準備しておきます。

使いやすい材料は、次のようなものです。

  • 新しく入った人が、一人で開発に入れるまでの期間と、それを縮めた工夫
  • コードの確認(レビュー)で、教える時間と自分の作業の時間をどう分けたか
  • 特定の人しか触れないシステムを、ほかの人も扱えるようにした経験
  • 採用の面接や、入社した人の受け入れにかかわった経験

育成の材料も、数字で語れると伝わりやすくなります。「独り立ちまで4か月かかっていたのが、手順をまとめて3か月になった」のような形です。

面接での深掘り

IT企業の昇格面接では、技術に詳しい面接官と、そうでない面接官が並ぶことがあります。どちらにも伝わるように、話す順番を決めておきます。

  1. 結論(何をして、何が変わったか)を、技術の用語を使わずに言う
  2. 数字を1つ添える
  3. 深掘りされたら、技術の中身を説明する

深掘りでよく聞かれそうなのは、次のような質問です。

  • 「技術の第一線から離れることに、抵抗はありませんか」
  • 「部下があなたより技術に詳しい場合、どうしますか」
  • 「プロジェクトが遅れたとき、顧客や上にどう説明しますか」

1つ目の質問には、技術を捨てるのではなく、技術の判断を組織の判断につなげる役目に移る、という考え方を自分の言葉で言えるようにしておくと答えやすくなります。答えの丸暗記ではなく、自分の経験の材料から話します。

論文での注意

IT企業の論文では、「DX」「AI」「クラウド」「アジャイル」のような言葉が出やすくなります。こうした言葉だけで答案を埋めると、何がどう変わるのかが見えず、中身が薄く読まれやすいと考えられます。

言葉を使うときは、次の点を添えます。

  • その言葉で、どの仕事の、何が変わるのか
  • 誰が、いつまでに、何をするのか
  • 効果を何で確かめるのか

技術の説明に字数を使いすぎないことも大切です。論文で評価されるのは、技術の知識の量ではなく、組織の課題をどう解くかの筋道だと考えられます。技術の説明は、読み手が理解するのに必要な分だけにとどめます。

架空の例:実績の言いかえ

場面:ソフトウェアの受託開発の会社で、リーダーをしているEさん(36歳)は、課長の昇格面接を控えています。最初に用意した実績は、次のようなものでした。

基幹システムの改修で、データベースの設計を見直し、処理の速さを改善しました。

技術の話としては正しくても、組織への効果が見えません。Eさんは、効果と自分の役割を書き足しました。

  • 効果:月末の締めの処理が6時間から2時間になり、顧客の担当者が翌朝から数字を使えるようになった
  • 役割:設計の見直しを提案し、メンバー3人に作業を分け、顧客への説明も自分で行った
  • その後:同じ見直しの手順をまとめ、ほかのチームでも使えるようにした

最初の一文は、次のように変えました。

顧客の月末の締めの処理を6時間から2時間に短くし、その手順をほかのチームでも使える形にまとめました。

専門職の道と管理職の道

IT企業の中には、管理職に進む道のほかに、専門職として技術を深める道を用意している会社もあります。どちらの道に進むかで、昇格試験で語る内容も変わります。

管理職の道の試験なのに、技術を深めたい思いばかりを語ると、役職への意欲が伝わりにくくなります。逆に、技術への思いを隠す必要もありません。技術の経験を、チームの判断の質を上げることに使いたい、という形でつなげると、両方の思いが無理なく伝わります。

道の分け方や、それぞれの道で求められることは、会社の人事制度によって違います。制度の資料を一度読み、専門職の道を選ばなかった理由を自分の言葉で説明できるようにしておくと、面接で「なぜ管理職なのか」と聞かれたときに慌てません。志望の理由の組み立てに迷う人は、「なぜ管理職(主任・係長)になりたいのか」に答えにくい人の準備の手順が使えます。

論文でDXやAIをテーマに書く場合の注意は、昇格論文のテーマ「DX・生成AIの活用」で説明しています。課長や管理職の面接で、部門の方針を語る準備は、課長・管理職の昇格面接で聞かれることが参考になります。

一人で練習するときの限界

技術の用語を外して実績を言いかえるところまでは、紙の上で進められます。けれども、言いかえた答えに「それは、あなたが一人でやったことですか」と重ねて聞かれたとき、チームの話として答えを続けられるかは、問われてみないと分かりません。

昇格パスの無料体験では、登録の後に、昇格面接の3問(実績・抱負・マネジメント)を文字で1回ずつ練習できます。答えると「具体的には」などの深掘りの質問が続き、終わると評価票で、観点ごとの評価と根拠になった発言を確かめられます。

個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。

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