業務改善や生産性の向上は、昇格・昇任論文で出やすいテーマです。「業務の効率化」「仕事の進め方の見直し」「限られた人員での成果」など、言い方を変えて出ることもあります。
このテーマは、改善の前と後を数字で比べやすい分、数字のない答案が目立ちやすいテーマでもあります。この記事では、書く前に集める数字と、原因から打ち手、効果までをつなぐ準備の手順を説明します。
※この記事に出てくる職場と例は、説明のために作った架空のものです。論文の決まりに合わせ、そのまま写せる段落や全文の見本は載せていません。
このテーマで評価されること
業務改善の論文は、読み手から見ると「前」と「後」の比べっこです。改善の前の姿がぼんやりしていると、どんな打ち手を書いても、どれだけ良くなるのかが伝わりません。
そのため、このテーマでは文章の上手さより、次のような「比べられる材料」がそろっているかで印象が分かれやすくなります。
- 改善する前の姿を、時間や件数などのものさしで言えるか
- そのものさしで、改善の後の姿も言えるか
- 前と後のあいだを、原因と打ち手の筋でつなげているか
書いてしまいがちなのは、「ムダを省き、効率化を徹底する」のような文です。どの仕事の、どのムダを、どう省くのかが見えないと、前と後を比べようがありません。
改善の前の数字を集める
材料集めは、数字から始めます。業務改善の論文では、改善の前の数字があるかどうかで、説得力が大きく変わります。
集めたい数字は、次の4つの系統です。
| 系統 | 数字の例 |
|---|---|
| 時間 | 1件の処理にかかる時間、待ち時間、残業の時間 |
| 量 | 月の処理件数、手作業の件数、会議の回数 |
| 質 | やり直しの件数、問い合わせや苦情の件数、ミスの件数 |
| 人 | その仕事に関わる人数、特定の人に集まる件数 |
正確な記録がなければ、おおよその値でかまいません。「月に40件ほど」「1件あたり20分前後」のように書けば、問題の大きさは伝わります。社外秘の数字をそのまま書く必要はありません。割合や目安で十分です。
数字を集めるときは、1つの仕事に絞ります。係の仕事全体を一度に扱おうとすると、どの数字も浅くなりがちです。
原因の分け方
数字で問題が見えたら、原因を掘り下げます。表面の原因で止めず、「なぜ」を2〜3回重ねます。
たとえば、「請求書の発行が遅れる」という問題なら、次のように掘ります。
- なぜ遅れるか → 担当者の確認に時間がかかる
- なぜ時間がかかるか → 元になる資料が3か所に分かれている
- なぜ分かれているか → 部署ごとに別の様式で管理していて、まとめる決まりがない
3段目まで来ると、人の努力ではなく、仕組みの問題が見えてきます。打ち手は、この3段目に向けて立てます。
原因は、次の4つのどれに近いかで分けておくと、打ち手を選びやすくなります。
- 手順:作業の順番や重なりに無駄がある
- 道具:紙や手入力、使いにくい仕組みに時間を取られている
- 分担:特定の人に仕事が集まっている、担当があいまい
- 情報:必要な情報が届かない、探すのに時間がかかる
打ち手の選び方
打ち手は、原因に1つずつ対応させます。原因が「資料が分かれている」のに、打ち手が「担当者を増やす」では、ずれています。
打ち手の候補が複数あるときは、「自分で決められるか」と「お金がかかるか」の2つで分けてみます。
| お金がかからない | お金がかかる | |
|---|---|---|
| 自分の係で決められる | まず書く打ち手。すぐ始められ、効果も早く確かめられる | 小さく試す形にして、範囲と期間を区切る |
| 上の了解が要る | 了解を取る段取りと一緒に書く | 根拠の数字を示して提案する、という書き方にとどめる |
左上の打ち手が1つもない論文は、「この人は何から始めるのか」が見えにくくなります。新しいシステムの導入だけを打ち手にすると、受ける役職の権限を超えやすく、立場とずれた提案に読まれることがあります。
効果の見込みの書き方
効果は、改善の前の数字と同じものさしで書きます。前の数字が「1件20分」なら、効果も「1件何分」で書きます。ものさしが変わると、比べられません。
見込みの数字は、根拠と一緒に書きます。「確認の手順を3つから2つに減らすので、1件あたり5分ほど短くなる見込み」のような形です。根拠のない「半分にする」は、願望に見えます。
時期も区切ります。「3か月後に」「次の決算期までに」と書くと、確かめる時期が見えます。数字で示しにくい効果(相談しやすくなる、特定の人の負担が減る)も、1つ添えると、職場の変化として伝わります。
関係者の巻き込み方
業務改善は、自分一人では進みません。手順を変えれば、慣れたやり方を変えられる人が出ます。打ち手の段落に、誰をどう巻き込むかを書いておくと、実行の現実味が増します。
- 係の人:改善の目的と、仕事がどう楽になるかを先に伝える。手順書は一緒に作る
- ほかの部署:様式をそろえるなら、相手の部署の手間が増えないかを確かめる
- 上司:手順を変える範囲と時期を先に相談し、判断を仰ぐ点をはっきりさせる
反対の声が出そうな点と、その越え方も1つ書きます。「最初の1か月は前のやり方と並行して進め、問題がなければ切りかえる」のような形です。
架空の例:材料の整理表
建設会社の工事事務所で、主任から係長を目指すZさんは、次の表を作りました。
| 項目 | Zさんの職場の材料 |
|---|---|
| 仕事 | 協力会社からの作業日報の取りまとめ |
| 前の数字 | 日報は紙とメールで月に約300枚。取りまとめに事務所の2人で毎日1時間ほど |
| 質の問題 | 書き漏れの問い合わせが月に15件ほど |
| 原因(3段目) | 協力会社ごとに様式が違い、書く欄も違う |
| 打ち手1 | 書く欄を一つの様式にそろえる(協力会社3社と相談) |
| 打ち手2 | 書き漏れが多い欄を、選んで書く形にする |
| 巻き込み | 協力会社には、様式をそろえると問い合わせの電話が減ることを先に伝える |
| 効果の測り方 | 取りまとめの時間、書き漏れの問い合わせの件数(3か月後に比べる) |
表を見れば、どの段落に何を書くかが決まります。
元の文と比べると、違いは1文でも見えます。
- 前:日報の管理業務を効率化し、生産性の向上を図る。
- 後:協力会社ごとに違う日報の様式を一つにそろえ、毎日2人で1時間かかる取りまとめを短くする。
この後に何を書くかは、表の行から自分で組み立てます。
当日にテーマが出る場合の備え
テーマが当日に出る論文では、その場で数字を集めることはできません。普段から、改善の材料になりそうな仕事を2〜3つ選び、数字を書き留めておきます。
書き留めるのは、表の「前の数字」「原因(3段目)」「打ち手」の3行だけで十分です。日報の取りまとめの材料なら、「業務改善」では時間の短縮として、「顧客へのサービス」では問い合わせの減少として、同じ3行を使い分けられます。
当日は、テーマの言葉を見て、どの仕事の材料を使うかを最初の数分で決めます。材料を選ぶ前に書き始めると、途中で数字が足りなくなり、一般論で埋めてしまいがちです。
受ける役職によって、打ち手の大きさも変えます。主任や係長の論文なら、自分の係の手順を変える話が中心です。課長の論文なら、ほかの係や部署との分担を変える話まで広げると、立場に合いやすくなります。
よくある書き方と直し方
| よくある書き方 | 読み手の見え方 | 直し方 |
|---|---|---|
| 前の数字は「月300枚」、効果は「業務負担の軽減」 | ものさしが変わり、どれだけ良くなるのか比べられない | 効果も「枚数」か「時間」で書く |
| 打ち手を5つ並べる | どれも1〜2文で終わり、実行の姿が見えない | 原因に対応する2つに絞り、段取りまで書く |
| 改善した後の姿だけを書く | 前の状態が分からず、改善の幅が伝わらない | 現状の段落の最初の文に、前の数字を置く |
表の3行目のように、現状の段落の頭に前の数字を置くと、読み手は最初から比べる準備ができます。
書いた後の点検
- 改善の前の数字と、効果の数字は、同じものさしか
- 原因が、人ではなく、手順・道具・分担・情報のどれかで書かれているか
- 打ち手の順番に理由があるか
- 受ける役職の権限でできる打ち手か
「効率化」「生産性の向上」という言葉が、数字のないまま段落の結論になっていたら要注意です。そうした文を数字の入った文に直す練習は、論文で「一般論」と言われたときで扱っています。
打ち手にシステムやAIの導入を入れる場合の書き方は、昇格論文のテーマ「DX・生成AIの活用」で説明しています。改善の成果を面接や申告書で語るときは、昇格試験の実績の書き方も参考にしてください。
書いたものを見てもらうには
数字と原因のつながりは、書いた本人には自然に見えても、読む側には飛んで見えることがあります。毎日その仕事をしている人ほど、「様式が違うと時間がかかる」理由を説明しなくても伝わると思い込みやすいものです。
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