公務員の昇任試験では、論文を課す選考が多く見られます。テーマは毎年変わりますが、出題の型には共通点があります。
型が分かると、テーマを予想して答えを覚えるのではなく、どのテーマにも使える材料を前もって集められます。
この記事では、昇任試験の論文テーマを2つの型に分け、型ごとの材料の集め方を説明します。過去の出題そのものは扱いません。形式の例として、東京都が公開している実施要綱を使います。
※この記事に出てくる職場や数字は、説明のために作った架空のものです。
出題の型(職場型・政策型)
昇任試験の論文テーマは、大きく次の2つの型に分けられます。ここでの呼び方は、この記事での整理のためのものです。
| 型 | 問われること | 多く見られる役職 |
|---|---|---|
| 職場型 | 自分の職場の課題と、係の一員・係長としての取組 | 主任・係長級 |
| 政策型 | 行政の課題を分析し、組織として解決策を示す | 管理職級 |
東京都の例を見ると、違いがよく分かります。
- 主任級職選考:課題式で、テーマに関する基本的認識を300〜500字程度、着眼点を示した具体的な取組を1,200〜1,500字程度で書きます(令和8年度の実施要綱)。
- 管理職選考(種別A):資料から問題点を抜き出して課題を整理する部分が400字程度、課題を分析して解決策を述べる部分が1,300〜1,800字程度です。評定の観点には「政策形成力」が入っています(令和8年度の実施要綱)。
同じ自治体でも、役職が上がると、職場の改善から政策の形成へと、問われる視点が上がります。自分の試験の要綱で、どちらの型に近いかを確かめてください。
職場型のテーマと材料
職場型のテーマは、たとえば次のような領域から出ることが多いと考えられます(一般的な傾向。推測)。
- 職場の人材育成、知識や技術の引き継ぎ
- 業務の効率化、事務の誤りの防止
- 住民(利用者)への対応の質
- 職場の連携、情報の共有
- 働き方、職員の健康
材料は、自分の職場の出来事から集めます。1つの出来事につき1枚のカードを作り、次の欄を埋めます。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| いつ・どこで | 時期と、係や窓口などの場所 |
| 規模 | 件数、日数、人数など、大きさが分かる数 |
| 見立て | なぜそうなっているかの自分の考え |
| 打った手 | 自分や係がすでに試したこと |
| その後 | 変わったこと、まだ残っていること |
1枚のカードは、複数の領域に使えます。たとえば「繁忙期に手続きの知識が2人に偏り、待ち時間が延びた」という事実は、人材育成にも、業務の効率化にも、住民対応にも使えます。カードを3〜5枚作っておくと、多くのテーマに対応できます。
政策型のテーマと材料
政策型のテーマは、自治体全体や、ある分野の行政の課題を扱います。東京都の管理職選考のように、資料が付いて、そこから問題点を拾う形もあります。
政策型で求められるのは、次の流れです。
- 資料や現状から、問題点を抜き出す
- 問題点を、取り組むべき課題として整理する
- 課題の原因を分析する
- 組織として実行できる解決策を示す
材料として集めておくものは、職場型と少し違います。
- 自分の自治体の総合計画や、分野ごとの計画の要点
- 自分の分野の主な統計(人口、件数、予算の規模などの桁)
- 国の動き(法改正や制度の変更)のうち、自分の分野に関わるもの
- 自分の部署で、計画をどう実行しているかの具体例
政策型でも、解決策の中に自分の職場での経験を一つ入れると、一般論から離れやすくなります。
自治体の計画・白書の使い方
自治体の計画や白書は、政策型の材料の宝庫です。ただし、読み方を誤ると、計画の文章をなぞっただけの論文になります。
次の順で読むと、材料にしやすくなります。
- 目次と要旨だけを読む:全体を読む必要はありません。自分の分野の章と、重点の施策を拾います。
- 数字を3つ抜き出す:目標の数字、今の数字、その差です。
- 自分の職場との接点を書く:その施策を、自分の部署ではどう実行しているか、どこに難しさがあるかを1行で書きます。
3つ目が、論文の中で自分の言葉になる部分です。計画の言葉を引用するときは、短くとどめ、すぐに自分の見方につなげます。
自分の職場の事実への置きかえ
テーマが職場型でも政策型でも、評価する側が知りたいのは、受験者がどう考え、どう動くかです。一般論の文を、自分の職場の事実に置きかえる練習をしておきます。
比べるために、1文ずつ例を示します。
- 一般論の文:職員の育成を推進し、組織力の向上を図ることが求められている。
- 置きかえた文:係の6人のうち、繁忙期の手続きを一人で処理できるのは2人だけである。
後の文には、飾りの言葉がありません。それでも、6人中2人という偏りが見えるので、「誰に、何を、いつまでに覚えてもらうか」という取組へ自然に進めます。
書き終えた論文から一般論の文を探し出して直す練習は、論文で「一般論」と言われたときで手順を追って説明しています。
資料が付く形への備え
政策型では、表やグラフの資料を読んでから書く形があります。資料の読み方は、ふだんの仕事の数字で練習できます。
自分の部署の数字を1つ選び、次の3つの比べ方で読み直してみます。
- 前の年と比べる:増えたか、減ったか、どれくらいの差か
- 全体と比べる:自治体全体や、ほかの部署の平均と比べて多いか少ないか
- 中身を分ける:合計の数字を、種類や地区、年代などに分けると、どこに偏っているか
資料の数字を論文に写すだけでは、問題点を抜き出したことになりません。「この差は何を意味するか」を1文で言えるところまでが、読み取りの作業です。
テーマの言い方と材料の対応
同じ領域でも、テーマの言い方は毎年変わります。準備の段階で、カードとテーマの言い方の対応を表にしておくと、本番で材料を選ぶ時間が短くなります。
| カード | 使えるテーマの言い方の例 |
|---|---|
| 書類の差し戻しが多い | 業務の効率化、事務の正確さ、住民の負担を減らす |
| 引き継ぎに時間がかかる | 人材育成、知識の共有、異動に強い職場 |
| ほかの課の手続きに答えられない | 住民対応の質、組織の連携、情報の共有 |
1枚のカードを、3つ以上のテーマの言い方に結びつけられれば十分です。逆に、どのテーマにも結びつかないカードは、事実が細かすぎるか、自分の職場の話になっていないことがあります。
よくあるつまずきと直し方
- 計画の言葉をそのまま並べる:計画の目標を写すと、誰の論文でも同じ文になります。計画の数字と自分の部署の数字を並べ、差を自分の言葉で説明します。
- 人や予算が増える前提で書く:「職員を増やす」「予算を確保する」が解決策の中心になると、自分の手で動かせる部分が見えません。今の人数と予算で始められることを先に置き、要望はその後に添えます。
- (1)と(2)がつながらない:(1)の認識で挙げた問題に、(2)の取組が答えていないことがあります。書く前に、問題と取組を線で結んだメモを作ります。
準備の順番
試験までの時間に合わせて、次の順で準備します。
- 要綱で型を確かめる:時間、字数、資料の有無、評定の観点
- 職場のカードを3〜5枚作る:職場型でも政策型でも使う土台
- 計画を読み、数字と接点をメモする:政策型の試験では欠かさずに
- 対応表を作る:問題点、課題、解決策を1対1でつなぐ
- 時間を計って書く:本番と同じ時間と字数で。手書きなら手書きで
東京都の主任級職選考を受ける人は、東京都の主任級職選考の論文で形式に合わせた準備を確かめられます。対応表の作り方そのものは、昇任・昇格論文は「書く前」で決まるが詳しく扱っています。
架空の例:テーマの予想より、材料の厚み
市役所の福祉の課で主事をしているMさんは、主任の昇任試験に向けて、「今年は防災が出そうだ」と予想し、防災の答えだけを準備していました。
Mさんは途中で方針を変えました。予想が外れたときに書けなくなるからです。代わりに、自分の課の事実をカードにしました。
- 申請の書類の不備で、差し戻しが月に約30件ある
- 担当の異動のたびに、引き継ぎに2週間かかる
- 窓口で、ほかの課の手続きを聞かれて答えられないことがある
この3枚は、業務の効率化、人材育成、住民対応、連携のどのテーマにも差し込めます。テーマを当てるより、どのテーマでも使える材料を厚くするほうが、本番で慌てにくくなります。
書いたものを見てもらうには
テーマの型をつかんでも、書いた論文が問いに沿っているかは、自分では見落としやすいところです。計画の言葉をなぞった部分も、書いた本人には自分の考えに見えてしまいます。
昇格パスの論文の演習では、区分(民間・自治体・教員)を選んで練習できます。材料の整理、骨組み、時間を計った本番、観点ごとの採点、書き直しの比較までを一人で進められます。採点では、本文の該当箇所を根拠として示します。
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