人材育成は、昇格・昇任論文でよく出るテーマの一つです。どの職場にもある話題なので書きやすく見えますが、そのぶん、どの職場にも当てはまる一般論になりやすいテーマでもあります。
この記事では、人材育成のテーマで評価されやすい点と、自分の職場の材料を集めて骨組みにする手順を説明します。
※この記事に出てくる職場と例は、説明のために作った架空のものです。論文の決まりに合わせ、そのまま写せる段落や全文の見本は載せていません。
このテーマで評価されること
採点の観点の名前は、選考ごとに違います。人材育成のテーマで読み手の印象を分けるのは、育成という大きな言葉を、どこまで自分の職場の仕事の言葉に下ろせているかだと考えられます(推測)。
文章の面から見ると、次の3つが分かれ目になりやすいところです。
- 「育成」「人材」という言葉が、業務の名前や判断の場面に言いかえられているか
- 問題と打ち手のあいだに、「なぜこの職場では育ちにくいのか」という見立てが1つ挟まっているか
- 結びが決意の言葉で終わらず、何が変われば育ったと言えるかで終わっているか
書いてしまいがちなのは、「OJTを推進し、主体性を育てる」のような文です。言っていることは正しくても、この職場の話なのかどうかが、読み手には分かりません。
テーマの出され方は1つではない
人材育成は、題名にそのまま出るとは限りません。「職場の活性化」「組織力の向上」「次世代の育成」「技能の継承」のような言い方で出ることもあります。「あなたが管理職として取り組みたいこと」のような広いテーマで、育成を中心に書く人もいます。
どの言い方で出ても、使う材料は大きく変わりません。題名の言葉に合わせて、問題の切り口を少し変えるだけです。
- 「職場の活性化」なら、特定の人に仕事が集まって周りが動けていない、という切り口
- 「技能の継承」なら、ベテランが抜けたときに止まる仕事がある、という切り口
- 「組織力の向上」なら、一人で判断できる人が少なく、確認待ちで仕事が止まる、という切り口
材料1つにつき、当てはまりそうな題名の言い方を2〜3個メモしておくと、見慣れない言い方の題が出ても、手持ちの材料から入り口を探せます。
受ける役職によって、書く範囲も変わります。主任や係長の論文なら、自分の係の中で、日々の仕事を通じて育てる話が中心になります。課長や管理職の論文なら、育てる仕組みや、育てる側の人を育てる話まで広げると、立場に合いやすくなります。
職場の問題の拾い方
材料は、育成の理想からではなく、職場にすでにある記録や会話から拾います。人が育つかどうかは、ふだんの仕事の記録に跡が残っていることが多いからです。
探す場所の例を挙げます。
| 探す場所 | 見るところ |
|---|---|
| 仕事の記録 | 差し戻し、やり直し、問い合わせの記録に、同じ種類のものが繰り返し出ていないか |
| 残業や当番の表 | 時間外や当番が、毎月同じ顔ぶれに寄っていないか |
| 自分の手帳 | 自分が代わりに片付けた仕事や、何度も説明した内容は何か |
| 引き継ぎのメモ | 異動や休みの前後で、引き継ぎに何日かかったか |
見つけた問題は、数字か具体的な場面で書き留めます。「若手が育たない」ではなく、「着任から半年たっても、窓口の手続きの3割は先輩に確かめている」のような形です。正確な数字がなければ、おおよその値でかまいません。
課題の立て方
問題は「今の状態と、あるべき状態の差」です。課題は「その差を埋めるために、やること」です。この2つを分けて書くと、論文の筋が通りやすくなります。
課題の文が弱いと、その後の打ち手もぼやけます。弱く見えやすい課題の文と、その理由を並べます。
| 弱く見えやすい課題の文 | 弱く見える理由 |
|---|---|
| 若手全体の底上げを図る | 相手が広く、打ち手を一つに絞れない |
| 主体性を育てる | 育ったかどうかを、何で確かめるのかが分からない |
| 早期の戦力化を進める | 「早期」がいつなのか、区切りがない |
直すときは、相手を1〜2のまとまりに絞り、身に付けてほしい力を業務の名前で書き、区切りの時期を決めます。たとえば「一人で月末の締めの作業ができる」のように、できたかどうかを見て分かる形にします。
打ち手(仕事を通じた指導・任せ方・面談)
打ち手は、見立てた原因に1つずつ対応させます。原因が「手順が人によって違う」なのに、打ち手が「研修を増やす」では、原因と打ち手がずれています。
人材育成の打ち手は、仕事を通じた指導、段階を決めた任せ方、定期的な対話など、言葉にすると似たものになりがちです。違いが出るのは、その打ち手を自分の職場のどの仕事に当てるかです。1つの打ち手を書くときは、次の順で中身を決めます。
- 何を変えるか:仕事の手順、組み合わせ、話す場など、変える対象
- どの業務に当てるか:職場の業務の名前と、その中のどの判断か
- 自分は何をするか:頼む、時間を空ける、確かめるなど、書き手自身の動き
3つ目が抜けると、「管理職として何をするのか」が見えにくくなります。打ち手を実行するときの壁(繁忙期と重なる、手順が人によって違う、など)を1つ挙げ、その越え方を添えると、計画の現実味が増します。
効果の示し方
効果は、数字で示せるものと、職場の変化で示すものの両方を考えます。
- 数字:先輩への確認の件数、一人で担当できる仕事の数、手続きにかかる日数
- 職場の変化:特定の人に質問が集まらなくなる、休みを取りやすくなる
効果には、いつまでに、を付けます。「半年後に」「次の繁忙期までに」のように区切ると、絵に描いた餅に見えにくくなります。
架空の例:材料の整理表
保険会社の事務部門で課長代理を目指すYさんは、人材育成のテーマに備えて、次のような表を作りました。
| 項目 | Yさんの職場の材料 |
|---|---|
| 問題 | 異動してきた人が、支払いの手続きのうち例外の処理で毎回止まり、ベテラン1人に確認が集まる |
| 数字 | ベテランへの確認が週に20件ほど。ベテランの残業が月25時間ほど |
| 誰を | 異動して1年以内の3人 |
| 何ができるように | 例外の処理のうち、よくある5つの型を一人で判断できる |
| いつまでに | 半年後 |
| 打ち手 | 例外の型の早見表を3人とベテランで作る/毎週15分、型ごとに練習する/判断に迷った件は、まず3人どうしで話す |
| 壁 | ベテランが作業を手放したがらない。早見表づくりの時間がない |
| 効果の測り方 | ベテランへの確認の件数、3人が一人で判断できた件数 |
表のどの行も、Yさんの職場でしか書けない中身です。この表をもとに、どの行をどの段落に使うかを決めれば、骨組みができます。
元の文と比べると、違いは1文でも見えます。
- 前:若手職員の育成に努め、組織力の向上を図る。
- 後:異動して1年以内の3人が、例外の処理のうち5つの型を半年で一人で判断できるようにする。
この後に何を書くかは、表の行から自分で組み立てます。
自分の経験を材料にするときの注意
人材育成のテーマでは、自分が育てられた経験や、後輩を指導した経験を書きたくなります。経験は、職場の事実として強い材料になります。
ただし、思い出話で終わらないように気をつけます。経験を書くのは、打ち手の根拠を示すためです。「以前、手順を一緒に確かめる形で後輩が早く独り立ちした。だから今回もこの方法を使う」というつながりが見えれば、経験が論文の中で働きます。
後輩や部下の名前、失敗の細かい中身は書きません。個人が特定できる書き方は、読む側にも、書かれた人にも配慮が足りなく見えます。
一般論にならないための点検
書いた論文は、次の点で見直します。
- 「育成」「人材」という言葉の後に、誰の、どの力かが書いてあるか
- 打ち手の主語が「研修」ではなく、自分や係の人になっているか
- 数字か場面が、段落ごとに1つはあるか
- 受ける役職の範囲でできる打ち手になっているか
「育成に努める」「人材を活かす」のような文が残っていたら、論文で「一般論」と言われたときの手順で、業務の名前や数字に置きかえます。材料のカードを作るところから始めたい人は、昇任・昇格論文は「書く前」で決まるから読むと流れがつかめます。
Yさんの表のような材料は、面接で「どう人を育てますか」と聞かれたときの話の種にもなります。口頭で短く伝える組み立ては、昇格面接の「部下をどう育てるか」が扱っています。
書く前の1週間でできる準備
試験まで時間が少ないときは、次の順で材料をそろえます。1日に15分ほどあれば進められます。
- 1〜2日目:探す場所の表を見ながら、職場の記録やメモから気になる事実を5つ書き出す
- 3日目:5つのうち、数字か場面で言えるものを2つ選ぶ
- 4日目:選んだ2つについて、Yさんの表と同じ項目で整理表を作る
- 5日目:整理表の行を、序論・現状・打ち手・結びのどこに使うかを決め、骨組みのメモにする
- 6〜7日目:時間を計って1本書き、点検の4項目で見直す
整理表が2枚あれば、題名の言い方が変わっても、どちらかを中心に組み立てられます。
書いたものを見てもらうには
育成の論文は、書き手が職場をよく知っているほど、説明を省いてしまいがちです。「例外の処理」と書いただけで伝わるつもりでも、職場の外の読み手には何の仕事か分からないことがあります。
昇格パスの論文の演習では、区分(民間・自治体・教員)を選んで練習できます。材料の整理、骨組み、時間を計った本番、観点ごとの採点、書き直しの比較までを一人で進められます。採点では、本文の該当箇所を根拠として示します。
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