コンプライアンスや不祥事の防止は、金融や行政の職場を中心に、昇格・昇任論文でよく出るテーマです。誰もが大事だと知っているテーマなので、「法令遵守を徹底する」「意識を高める」で終わる論文になりやすい面があります。

この記事では、このテーマを自分の職場の仕組みの話として書くための、材料の集め方と骨組みの作り方を説明します。

※この記事に出てくる職場と例は、説明のために作った架空のものです。論文の決まりに合わせ、そのまま写せる段落や全文の見本は載せていません。法令の解釈は扱いません。

このテーマの論文が似てしまう理由

コンプライアンスの論文は、使う言葉が受験者の間でほとんど同じになります。法令遵守、倫理観、徹底、風通しといった言葉は、誰が書いても正しく、だからこそ差がつきません。

差が出るのは、その言葉の下に、どの仕事のどの場面が書かれているかです。読み手は、受験者が自分の職場の危ういところを、どれだけ具体的に知っているかを見ていると考えられます(推測)。

書いてしまいがちなのは、「職員一人ひとりの倫理観を高め、組織全体で法令遵守を徹底する」のような文です。間違ってはいませんが、どの職場の、何の仕事の話なのかが読み取れません。

職場で起きうる問題の拾い方

材料は、大きな事件からではなく、自分の職場の日々の仕事から拾います。おすすめは、自分の係の代表的な仕事を1つ選び、その流れを段階に分けて見ていく方法です。

仕事の段階 見るところ
受け取る 申込書、現金、データなど、何を誰から受け取り、受け取った記録が残るか
判断する 決まりに当てはめる判断を、誰が、どの基準で行っているか
記録する 記録の欄や様式が、書き手によって違う書き方を許していないか
渡す・送る 宛先や中身を、送る前に誰が見ているか
しまう・捨てる 保管の場所と期間、捨てるときの手順が決まっているか

段階ごとに「ここで間違いや不正が起きたら、誰がいつ気づけるか」を考えると、気づく人がいない段階が見つかります。そこが論文の材料になります。

見つけた問題は、場面と数字で書き留めます。「情報管理に課題がある」ではなく、「送付の段階で、宛先を見るのは作った本人だけで、月に数百通を送っている」のような形です。

実際にあった出来事を材料にするときは、関わった人や時期が分からない程度にぼかします。報道された他社の例を引くときも、紹介は1文にとどめ、自分の職場の段階のどこに当たるかを書くために使います。

仕組みと意識の両方から書く

打ち手は、仕組みと意識の両方を組み合わせると、筋が通りやすくなります。どちらか一方だけでは、読む側に「それで防げるのか」と思われやすいからです。

打ち手の種類 中身の例 書くときの注意
仕組み 確認の手順を見える形にする、一人で完結する手続きに確認者を置く、権限を分ける 現場の負担がどう変わるかも書く
意識 職場の具体例を使った勉強会、決まりの理由を説明する 何の例を、どの場で、どのくらいの間隔で扱うかを書く
人 面談で困りごとを聞く、仕事の量の偏りを直す 不祥事の背景にある無理を減らす視点を入れる

意識の打ち手は、精神論に見えやすいところです。「意識改革」と書く代わりに、何を、誰に、いつ、どう伝えるかを書きます。たとえば、毎月の係会で、他の職場で起きた事例を一つ取り上げ、自分の係で同じことが起きないかを話し合う、という形です。

報告しやすい職場の作り方

不祥事の防止で見落とされやすいのが、悪い知らせが早く上がる職場を作ることです。小さなミスが隠れると、後で大きな問題になります。

管理職としてできることは、たとえば次のようなものです。

  • 報告の場では、原因探しより先に、影響を広げないための次の手を一緒に決める
  • 何を、どの段階で、誰に伝えるかを決めて、係の全員に知らせる
  • 報告された件の扱いの結果を、係の中で共有する(個人が分からない形で)
  • 社内の相談窓口や通報の窓口があることを、折にふれて伝える

ハラスメントの相談を受けたときの上司の動き方は、ハラスメントの相談を受けた面談で説明しています。論文で「相談しやすい職場」を書くときの材料にもなります。

点検と見直し

打ち手は、実行して終わりではありません。決めた手順が守られているかを確かめ、合わなければ直す流れまで書くと、計画の現実味が増します。

  • いつ確かめるか:毎月の締めの後、半年に一度など
  • 何で確かめるか:確認の記録、報告の件数、手続きのやり直しの件数
  • 誰が確かめるか:自分、係の中の担当、他の係と交代で

効果は、「不祥事がゼロになる」とだけ書くと、確かめようがありません。報告の件数が増える(小さなミスが表に出る)、手続きのやり直しが減る、のように、測れる変化を書きます。報告が増えることを、小さな問題が早く見えるようになった変化として示せると、数字の読み方まで考えていることが伝わります。

架空の例:材料の整理表

市役所の税の窓口で係長を目指すWさんは、このテーマに備えて、次の表を作りました。

項目 Wさんの職場の材料
問題 繁忙期の3月は、証明書の交付で本人確認の記録の書き漏れが週に数件ある
原因 確認と記録を一人で行い、記録の欄が分かりにくい。忙しい時は後でまとめて書いている
仕組みの打ち手 記録の欄を見直す/繁忙期は確認と記録を2人で分ける
意識の打ち手 係会で、書き漏れが起きた場面を月に1回振り返る
報告しやすさ 書き漏れを見つけた人が、その場で係長に伝え、記録の直し方を一緒に決める
点検 毎週金曜に記録を抜き取りで確かめる
効果の測り方 書き漏れの件数、自分から報告された件数

元の文と比べると、違いは1文でも見えます。

  • 前:職員の倫理観を高め、法令遵守を徹底する。
  • 後:繁忙期の本人確認を2人で分け、記録の書き漏れを毎週の抜き取りで確かめる。

この後に何を書くかは、表の行から自分で組み立てます。

Wさんの表で目を引くのは、「意識」の行より「仕組み」と「点検」の行が具体的なことです。意識の打ち手も入っていますが、それは書き漏れの場面を振り返るという、仕組みと結びついた形になっています。打ち手の種類をそろえるより、同じ問題に別の角度から手を打つ形にすると、論文の筋が一本にまとまります。

役職によって書く範囲を変える

同じテーマでも、受ける役職によって、論文で扱う範囲が変わります。

  • 主任・係長:自分の係の一つの仕事を取り上げ、段階ごとの確かめ方と、係の中での報告の流れを書きます。
  • 課長:複数の係にまたがる手順や権限の分け方、ほかの部署との確かめ合い、点検の結果を上に報告する流れまで広げます。

主任・係長の論文で、組織全体の通報の制度の作り直しを中心に置くと、自分で動かせる部分が見えにくくなります。課長の論文で一つの書類の書き方だけを扱うと、範囲が狭く見えることがあります。どちらの場合も、自分が決められることを先に書き、上に提案することは後に置きます。

一般論にならないための点検

書いた論文は、次の点で見直します。

  • 「徹底」「意識」「倫理観」の後に、具体的な行動が書いてあるか
  • 打ち手の主語が、自分か、係の中の役割になっているか
  • 職場の場面か数字が、段落ごとに1つはあるか
  • 点検と見直しの方法が書いてあるか

「徹底する」で終わる文を、仕事の段階と行動の入った文に直す手順は、論文で「一般論」と言われたときで扱っています。金融の職場で受ける人は、顧客本位の話とあわせて銀行・金融の昇格試験も参考になります。

よくある書き方と直し方

よくある書き方 読み手の見え方 直し方
違反したときの処分を重くする、を打ち手にする 処分が重いほど、小さな間違いが隠されやすくなるのではと読まれる 間違いが早く見つかる仕組みを先に書く
確認の書類や印を増やす 現場の手間が増え、確認が形だけになるおそれが残る 確認の場所を、気づく人がいない段階に絞る
効果を「不祥事を起こさない職場」とだけ書く 何が変われば達成なのかが分からない 記録の書き漏れの件数など、段階ごとの数字で書く

どの直し方も、打ち手を「どの段階に置くか」で考えることが共通しています。

当日にテーマが出る場合の備え

テーマが当日に出る論文では、その場で仕事の流れを洗い出す時間はありません。ふだんから、自分の係の代表的な仕事を1つ選び、段階の表を作っておきます。

表があれば、「情報の管理」「事務の正確さ」「信頼される組織」など、言い方の違うテーマにも、同じ段階の材料を当てられます。テーマの言葉を見たら、表のどの段階を中心に置くかを最初に決めてから、骨組みに進みます。

書いたものを見てもらうには

コンプライアンスの論文は、正しい言葉で書かれている分、書いた本人には十分に具体的に見えてしまいます。どの段落が一般論のままかは、自分の職場を知らない人の目で読まないと分かりにくいものです。

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