部下から「〇〇さんの言い方がつらい」「ハラスメントではないかと思う」と相談されたとき、上司は何をすればよいのでしょうか。その場で白黒をつけたくなりますが、上司が一人で判断することではありません。
この記事では、相談を受けた上司が最初にすることと、社内の窓口につなぐまでの進め方を説明します。昇格試験の面談演習でこの場面が出たときの考え方にも触れます。
※この記事に出てくる職場と会話は、説明のために作った架空のものです。この記事は法律の判断をするものではありません。実際の相談では、勤め先の就業規則やハラスメントの規程、相談窓口の案内に従ってください。
会社に求められていること
厚生労働省によると、職場のパワーハラスメントを防ぐ措置は、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から、事業主の義務になっています。措置には、方針を明確にして知らせること、相談に応じる体制を整えること、相談があったら事実を確かめて適正に対処することなどが含まれます。
相談した人や、事実の確認に協力した人を、そのことを理由に不利益に扱ってはならないと定めて知らせることも、措置の一つです。
つまり、会社には相談の窓口と手順があるはずです。上司の役目は、相談を受け止め、その仕組みに漏れなくつなぐことです。自分の会社の窓口と手順を、相談を受ける前に一度確かめておきます。
相談を受けたときの最初の一言
最初の一言で、相談した人が「話してよかった」と思えるかが決まります。
- 「話してくれてありがとう。話しにくかったと思います」
- 「ここで聞いたことは、必要な人以外には広めません。ただ、会社の手順に沿って対応するために、窓口と共有することはあります」
2つ目の一言は大切です。「誰にも言わない」と約束すると、後で窓口や人事につなぐときに約束を破ることになります。秘密を守る範囲を、最初に正直に伝えます。
時間と場所にも気を配ります。人目のある場所や、相手として名前が出た人の近くでは話しません。時間が取れないときは、その場で短く受け止め、できるだけ早く別の時間を取ります。
聞き取りで気をつけること
聞き取りでは、事実と気持ちを分けて聞きます。
| 聞くこと | 質問の例 |
|---|---|
| いつ、どこで | 「最初にそう感じたのは、いつごろですか」 |
| 何があったか | 「そのとき、どんな言葉や行動がありましたか」 |
| 周りの状況 | 「その場に、ほかに誰かいましたか」 |
| 今の困りごと | 「いま、毎日の仕事で一番困っていることは何ですか」 |
| 本人の希望 | 「この先、何があると安心して働けそうですか」 |
してはいけないのは、相談した人を疑うような聞き方です。「気にしすぎでは」「相手にも悪気はないと思う」と言うと、相談した人は口を閉ざします。相手として名前が出た人をかばうつもりがなくても、そう聞こえます。
反対に、その場で「それはひどい、ハラスメントだ」と断定するのも避けます。上司は、相手の話をまだ聞いていません。気持ちには寄りそいながら、判断は手順に任せます。
聞いた内容は、日時、本人の言葉、本人の希望を中心に、その日のうちに記録します。記録の置き場所と見られる人は限ります。
その場で約束してはいけないこと
相談の場では、早く安心させたくて、できない約束をしがちです。次のような約束は、その場ではしません。
- 「相手を異動させる」「処分してもらう」:上司一人で決められることではありません
- 「誰にも言わない」:会社の手順に沿って共有することがあります
- 「すぐに解決する」:事実の確認には時間がかかります
代わりに、自分がすることと、いつまでに次の連絡をするかを約束します。「今日中に窓口に相談し、明後日までに、どう進むかをあなたに伝えます」という形です。
社内の窓口・人事へのつなぎ方
つなぐ前に、相談した人の同意を確かめます。どこまで、誰に伝えてよいかを聞きます。本人が窓口に直接行きたいと言えば、窓口の場所と連絡の方法を伝え、その後の様子を気にかけます。
本人が、窓口に話すことをためらう場合もあります。その気持ちは受け止めたうえで、会社の手順で扱う必要がある場合があることを、隠さずに説明します。どう進めるかは本人と相談して決めます。迷うときは、上司が窓口に相談の仕方を聞くこともできます。
体調の不調がうかがえるときは、産業医や保健師、社内の相談窓口も案内します。病気かどうかを上司が判断することはしません。つなぎ方は、元気がない部下との面談でも説明しています。
相談した人を守る
相談の後に気をつけたいのが、相談した人が職場で居づらくならないことです。
- 相談があったことを、職場の雑談で話さない
- 相談した人の仕事の割り振りや評価を、相談を理由に変えない
- 相手として名前が出た人と、二人きりになる場面を減らすなど、必要な配慮を窓口と相談する
- 相談の後も、ときどき様子を聞く
上司自身が相手として名前が出たときは、自分で対応しません。自分の上司か、窓口に相談するよう本人に伝えます。
面談演習で出たときの考え方
ハラスメントの相談は、演習でも、職場と同じ線を守ることが求められる題材だと考えられます(推測)。受験者がつまずきやすいのは、上司としての頼もしさを見せようとして、その場で決着をつけようとすることです。
- 相手として名前が出た人を「注意しておく」と、その場で約束してしまう
- 「それはハラスメントだ」「それくらいは指導の範囲だ」と、どちらかに言い切ってしまう
- 聞き取りを急ぎ、相談した人の話を途中でまとめてしまう
どれも、会社の手順を飛ばした対応に見えやすい動きです。演習でも、受け止める、聞く、手順につなぐ、の順を崩さないようにします。観点ごとに自分の対応を振り返るなら、面談演習の評価の観点を一覧にするの点検表が使えます。
相談を受ける前にしておくこと
相談は、予告なしに来ます。管理職になったら、早いうちに次のことを確かめておくと、当日に慌てずにすみます。
- 会社のハラスメントの規程と、相談窓口の名前・連絡の方法
- 相談を受けた管理職が、誰に、どの順で報告するか
- 社外の相談窓口があるか
- 産業医や保健師への相談の申し込み方
一覧にして手元に置いておけば、相談を受けたその場で、窓口の案内を落ち着いて伝えられます。
架空の例:最初の5分
場面:物流会社の倉庫で課長をしているVさんのところに、入社8年目の班のリーダーが来ました。「同じ班の人から、休憩のたびに見た目のことをからかわれるのがつらい」という相談です。
最初の練習で、Vさんは次のように答えました。
冗談のつもりだと思うよ。あまり気にしないほうがいい。
評価する側から見ると、相談を受け止めず、相手をかばっているように見えます。Vさんは、次の形に直しました。
話してくれてありがとう。言いにくかったと思います。最初にそう感じたのはいつごろか、どんな言葉だったか、覚えている範囲で教えてください。会社には相談の窓口と手順があるので、どう進めたいかも一緒に考えさせてください。
受け止め、事実を聞く問いを出し、手順につなぐことを予告しています。この後の話の進み方は、部下の答え次第です。
一人で確かめるときの限界
最初の一言や、約束しないことの一覧は、手元で準備できます。けれども、相談した人が言葉に詰まったときに、急かさずに待てるか、断定せずに聞き続けられるかは、相手と話してみないと確かめられません。
昇格パスの無料体験では、登録の後に、部下面談の1場面(評価に納得していない部下)を文字で1回練習できます。この記事の場面とは違いますが、まず受け止めてから事実を聞き、その場で約束できないことを分けて伝える点は共通です。部下役は、聞き方によって話す内容が変わります。終わると評価票で、観点ごとの評価と、根拠になった自分の発言を確かめられます。
個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。受け止める言葉から始める練習として使ってみてください。
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