消防の昇任試験では、法令などの択一とあわせて、論文が課されることがあります。現場の経験は豊富でも、それを論文の形にするのが苦手、という人は少なくないはずです。

この記事では、消防の昇任試験の論文に絞って、現場の経験を材料にし、組織の課題につなげて書く方法を説明します。択一の対策や、特定の消防本部の出題は扱いません。字数や時間などの形式は、受ける年の所属の本部の実施要綱や案内で確かめてください。

※この記事に出てくる人物と職場は、説明のために作った架空のものです。

消防の昇任試験の論文で見られること

消防の昇任試験の形式は、本部ごとに違います。公開されている例を一つ挙げると、横浜市は係長職にあたる消防司令への昇任を、係長と同じ「係長・消防司令昇任試験」の区分の一つとして実施し、実施状況を公表しています。令和6年度の消防司令の区分Aは、第一次受験者85人、最終合格者16人、競争率5.3倍でした。

論文で見られることは、ほかの職種の昇任論文と共通する部分が多いと考えられます(推測)。

  • 現場で起きていることを、組織の課題として捉えているか
  • 原因を、人の問題でなく、仕組み・手順・教育の問題として考えているか
  • 昇任後の階級・役職として、何をするかが具体的か
  • 安全と、住民の信頼を外していないか

消防の論文で特に気をつけたいのは、現場の武勇伝で終わらないことです。難しい現場をどう乗り切ったかより、その経験から、組織として何を変えるべきかを書くことが求められます。

現場の経験を材料にする

まず、現場の経験を、次の表で書き出します。

項目 書き出すこと
出来事 災害対応、訓練、日常の点検、署内の業務で起きたこと
課題 その出来事で見えた、組織の弱いところ
原因 手順、装備、教育、人の配置、情報の流れ
自分がしたこと 改善の提案、後輩への指導、手順の見直し
残った課題 まだ解決していないこと

個人や事案が特定される書き方は避けます。日時、場所、関係者が分かる情報は伏せ、課題が伝わる最小限の事実にとどめます。

安全管理・人材育成のテーマ

消防の論文では、安全管理や人材育成がテーマになることが多いと考えられます(推測)。

安全管理:

  • 訓練や活動中の事故・ヒヤリハットを、どう減らすか
  • 安全を確かめる手順が、形だけになっていないか
  • 若い職員が、危ないと思ったときに声を上げられるか

人材育成:

  • 経験の多い職員の退職と、若い職員の増加をどう受け止めるか
  • 現場の判断の力を、訓練だけでどう育てるか
  • 指導する側の負担を、どう分けるか

どちらのテーマでも、「訓練を徹底する」「意識を高める」で終わると、一般論になります。何を、誰が、どれくらいの頻度で、どう確かめるかまで書きます。

組織の課題への広げ方

現場の出来事から、組織の課題へ広げる流れは次のとおりです。

  1. 出来事を1つ示す:短く、事実で
  2. 同じことが、ほかでも起きうる理由を書く:仕組みや手順の問題として
  3. 組織の課題として言い直す:「〇〇の手順が、署によって違う」など
  4. 昇任後の立場で、何をするかを書く:自分の隊・係でまず試し、広げる道筋
  5. 効果の確かめ方を書く:何がどう変われば、うまくいったと言えるか

自分の隊の中で完結する話にとどめず、署や本部全体にどうつながるかを1文入れると、視点の高さが伝わります。

字数と時間

字数と時間は、本部の実施要綱で確かめます。そのうえで、試験時間をどう割り振るかを、練習の段階で決めておきます。考え方の要は、書き始める前の組み立てに時間を惜しまないことと、最後の見直しの時間を先に取っておくことです。60分や90分での具体的な割り振りは、試験時間内に論文を書き切るで扱っています。

手書きの場合は、書く速さを一度、本番の時間と字数で確かめておきます。普段パソコンで報告書を作っている人は、手書きの速さが思ったより遅いことがあります。勤務の合間に1本を通して書くのが難しければ、組み立てのメモだけを15分で作る練習を重ねるのも一つの方法です。

階級が上がるときの視点の変化

昇任する階級によって、論文で求められる視点の高さも変わると考えられます(推測)。

立場 論文の中心
隊や係の中心となる立場 自分の隊・係の訓練、安全、若手の指導
係や隊を束ねる立場 複数の隊・係の間の手順の統一、情報の共有
署や課を預かる立場 署全体の方針、人員と装備の配分、他機関との連携

自分が受ける階級で、何を任される立場になるのかを先に確かめます。その立場で動かせる範囲の打ち手を書くと、視点の高さが合います。

架空の例:救助隊の隊員

救助隊で働くSさん(36歳)は、論文の材料を「難しい救助の現場で、隊長の指示に従って活動した」経験にしようとしていました。

けれども、この材料は、Sさんの勇気は伝わっても、組織の課題が見えません。Sさんは、その現場の後に何が起きたかを考え直しました。活動の後の振り返りが、隊によってやり方が違い、学んだことが署全体に共有されていないことに気づきました。

材料は、「活動の後の振り返りを、署で同じ形にそろえる」という組織の課題に変わりました。昇任後の打ち手は、まず自分の隊で振り返りの様式を試し、3か月後に署の会議で共有する、という形にできます。

よくある書き方:「困難な現場においても、隊員一丸となって活動を完遂した。今後も現場力の向上に努めたい」

評価する側からの見え方(推測):現場で力を尽くしたことは伝わります。けれども、昇任後に何を変える人なのかは読み取れません。「現場力の向上」も、何をすることか決まっていない言葉です。

直し方:活動の中身は2文ほどに縮め、その後に見えた組織の弱いところに字数を回します。「現場力」は、「振り返りで出た気づきを、ほかの隊が次の出動の前に読める状態にする」のように、行動の言葉に直します。

救急・予防・署内の業務からも材料は取れる

材料を災害の現場だけに求めると、書ける出来事が限られます。救急や予防、署内の事務にも、組織の課題につながる事実があります。

  • 救急:出動が重なる時間帯に、隊の配置や引き継ぎで困ったこと
  • 予防:査察の記録の書き方が担当者によって違い、引き継ぎに時間がかかったこと
  • 署内の業務:装備の点検の記録が紙と電子で二重になっていること

どの材料も、出来事→原因→組織の課題→自分の打ち手、の順に並べ直すと、論文の骨組みになります。テーマが安全管理でも人材育成でも、手元の材料のどれかを当てはめられるよう、3つほど準備しておくと安心です。

一般論にならないための点検

問い 「いいえ」のときに足すもの
現場の事実が1つ以上書かれているか 出来事を短く1つ
原因が、仕組み・手順・教育の話になっているか 「なぜ」をもう一段
組織の課題として言い直しているか 署や本部への広がり
打ち手に、誰が・何を・いつまでに、があるか 具体的な行動
個人や事案が特定される情報を伏せているか 伏せ字や一般的な言い方

「いいえ」が付いた行は、書き直しの優先順位でもあります。抽象的な言葉を、隊や署で実際に起きたことへ戻す手順は、論文で「一般論」と言われたときを参考にしてください。

面接も課される場合

論文とあわせて面接が課される場合は、論文の材料をそのまま面接でも使えます。論文で書いた出来事について、「具体的には」「なぜそう判断したのか」「次に同じことが起きたら」と聞かれても答えられるよう、裏付けの事実を手元に用意しておきます。

論文と面接で話が食い違わないよう、論文の骨組みを面接の前日に読み返します。

一人で準備するときの限界

交替制の勤務では、同じ署の上司や先輩に論文を読んでもらう時間を合わせるのも簡単ではありません。現場を知る人ほど、出来事の中身に目が行き、組織の課題として書けているかという点は見落とされがちです。

昇格パスの論文の演習では、区分(民間・自治体・教員)を選んで練習できます。材料の整理、骨組み、時間を計った本番、観点ごとの採点、書き直しの比較までを一人で進められます。採点では、本文の該当箇所を根拠として示します。消防専用の区分はないため、自治体の区分を使う形になります。

本文を代わりに書くことはしません。論文は無料体験の対象に入っていないため、まずは演習の内容をプランの説明でご確認ください。昇格面接の3問は、登録の後に無料で試せます。

プランの説明を見る 無料体験を見る

関連する記事