市役所で働いていると、ある年齢になると昇任試験の案内が届きます。周りを見ると、受けない人も少なくない。自分はどうしようか、と迷う人に向けた記事です。

受けるように勧める記事ではありません。試験の中身と準備の負担を見積もり、給与と仕事の変化を確かめたうえで、自分で決めるための材料をまとめます。

※この記事に出てくる人物と職場は、説明のために作った架空のものです。

市役所の昇任試験のよくある形式

市役所の昇任試験は、係長への昇任を対象にしたものが中心だと考えられます(推測)。形式は自治体ごとに違いますが、次の組み合わせがよく見られます(推測)。

  • 筆記(択一):地方自治制度、地方公務員制度、行政法、時事など
  • 論文:職場の課題や市の政策課題について、係長としての考えと取り組み
  • 面接:志望の理由、実績、係員への対応など
  • 勤務評定:日ごろの評価をあわせて見る

試験ではなく、推薦や選考で昇任する道を設けている自治体もあります。たとえば横浜市は、昭和30年から係長昇任試験を実施し、平成21年度からは係長昇任選考も導入して、試験と選考の二本立てにしている、と公表しています。

自分の市の制度は、受験案内や人事課の通知で確かめます。試験と選考のどちらが自分に向いているかも、制度を知って初めて考えられます。

受けない人が多い理由

昇任試験を受ける人が多くないことは、自治体の側も課題として捉えています。横浜市人事委員会事務局は、令和8年度の運営方針に、係長・消防司令昇任試験の受験者数を増やし、受験率を上げるための周知を掲げています。

受けない理由は人それぞれですが、次のようなものが考えられます(推測)。

  • 係長になると、責任と仕事の量が増えそう
  • 議会や住民への対応の矢面に立つのが不安
  • 育児・介護など、生活との両立が心配
  • 試験勉強の時間が取れない
  • 給与が増える割に、負担が大きいと感じる

どれも、もっともな理由です。ただ、多くは「そうなりそう」という見通しで、自分の場合に本当にそうなのかは、確かめないと分かりません。理由ごとに、確かめる先を決めておくと、迷いが具体的な調べものに変わります。

迷いの理由 確かめる先 確かめること
責任と仕事が増えそう 今の係長、人事の資料 係長の1週間の仕事の中身と、時間外の実態
議会や住民対応が不安 配属されそうな部署の係長 係長が前に出る場面の頻度と、課長との分担
生活との両立が心配 就業規則、人事の担当 短時間勤務や休暇の制度が係長にも使えるか
勉強の時間がない 自分の予定表 下の表で見積もった時間が、実際に空いているか
給与の割に負担が大きい 給与条例と規則 級と号給、手当の変化を数字で

全部を埋める必要はありません。気になる理由の1つか2つを確かめるだけでも、判断の重さがだいぶ変わります。

受けた場合の準備の負担

準備の負担は、試験の科目ごとに見積もると具体的になります。

科目 準備の中身 負担の見積もり方
択一 出題分野の問題を解く 分野の数×1分野にかける週数
論文 材料を集め、時間を計って書く 書く本数×1本にかかる時間(書く+見直す)
面接 材料カードを作り、声に出して練習 カードの枚数と練習の回数

たとえば、択一の分野が4つで1分野に2週間、論文を5本、面接の練習を5回と決めると、平日に1日30分から1時間、週末に2〜3時間ほどの計画になる、という見当が付きます(あくまで一例です)。

この見積もりを、自分の仕事の繁忙期と並べます。繁忙期と試験の直前が重なる場合は、早めに始めるか、科目の順番を工夫します。準備期間の組み立て方は、試験日から逆算する昇格試験の準備計画で説明しました。

給与と仕事の変化の調べ方

給与の変化は、市の給与条例と規則、人事課の資料で確かめます。

  1. 今の給料表の級と号給、手当
  2. 係長になったときの級と、昇任時の号給の決まり方
  3. 係長に付く手当と、時間外勤務手当の扱い

自治体の給与の状況は、各自治体が公表している「人事行政の運営等の状況」などの資料にも載っていることがあります。

仕事の変化は、今の係長の1週間を思い浮かべると見えてきます。係員の相談、決裁、会議、議会の資料、住民対応の判断。可能なら、信頼できる係長に、どんな1週間かを聞いてみます。

聞くときは、「大変ですか」と尋ねるより、「先週いちばん時間を取られた仕事は何でしたか」「係長になって、自分で決められるようになったことは何ですか」のように、具体的な場面を尋ねるほうが参考になる答えが返ってきやすくなります。負担の話と、やりがいの話の両方を聞いておくと、判断の材料が偏りません。

受けると決めた後の順番

  1. 受験案内で科目と日程を確かめる
  2. 準備の負担を見積もり、週の計画に落とす
  3. 職場の事実を集める:論文と面接の両方の材料になる
  4. 論文の骨組みを作り、時間を計って書く
  5. 面接の材料カードを作り、声に出して練習する
  6. 択一は毎日少しずつ

係長に求められる役割と、論文・面接の準備は、公務員の係長昇任試験で詳しく説明しました。迷いが強いときは、昇格試験を受けたくないときも参考にしてください。

架空の例:迷っていた主任

市の税務の窓口で主任をしているLさん(37歳)は、3年続けて昇任試験の案内を見送ってきました。理由は「勉強の時間がない」でした。

今年、Lさんは科目ごとに負担を見積もってみました。択一の分野は4つ。論文は5本、面接の練習は5回。繁忙期の2月と3月を避けると、平日30分と週末2時間で、試験に間に合うと分かりました。

時間がないと思っていたのは、見積もる前の印象でした。Lさんは、今年は受けると決めました。見積もった結果、無理だと分かれば、来年に回す判断もできました。

準備を始めてみると、Lさんは論文でつまずきました。最初の1本は、税の制度の説明と「適正な課税に努める」という決意で、ほとんどが埋まっていました。読み返して、係長として何をするのかが書かれていないことに気づきました。

そこでLさんは、窓口で実際に起きていることを3つ書き出すところからやり直しました。決まった時期に電話の問い合わせが集中し、窓口の対応が手薄になること、などです。事実から書き始めると、係長として打つ手も自然に具体的になりました。制度の説明は、冒頭の1文に縮めました。

上司や同僚にどう伝えるか

受けると決めたら、上司には早めに伝えておくと、試験の前の仕事の調整を相談しやすくなります。伝えるときは、試験の日程と、準備で配慮してほしいことがあれば、それだけを短く伝えます。

同僚に伝えるかどうかは、自分で決めてかまいません。伝えない選択をする人もいます。気になる場合は、職場の誰にどこまで伝えるかを、先に決めておきます。

試験の直前の時期に繁忙期が重なりそうなら、上司に伝えるときに、その時期の仕事の分け方を一緒に相談しておくと安心です。準備のための配慮を求めるというより、試験の日に仕事が止まらないための段取りとして話すと、相手も受け止めやすくなります。

受けないと決めた場合も、上司には、案内を見たうえで今年は見送ることを、短く伝えておくと行き違いが減ります。理由を細かく話す必要はありません。「今年は家庭の事情で見送ります。来年また考えます」のような一言で足ります。

一人で準備するときの限界

迷った末に受けると決めた人ほど、受験することを職場であまり広めたくない、と感じることもあるでしょう。そうなると、論文を誰かに読んでもらう機会も限られます。自分で読み返すだけでは、制度の説明や決意の文が多すぎることに気づきにくいものです。

昇格パスの論文の演習では、自治体の区分(主任・係長)を選んで練習できます。材料の整理、骨組み、時間を計った本番、観点ごとの採点、書き直しの比較までを一人で進められます。採点では、本文の該当箇所を根拠として示します。

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