「あなたの考えるリーダーシップと、その実践について述べよ」。昇格論文では、このようなテーマが出ることがあります。書きやすそうに見えて、実は一般論になりやすいテーマです。
この記事では、リーダーシップのテーマが抽象論になりやすい理由と、自分の職場の材料で書くための集め方を説明します。そのまま写せる本文の見本は載せていません。材料の整理表と、1文の比較だけを示します。
※この記事に出てくる人物と職場は、説明のために作った架空のものです。
このテーマが抽象論になりやすい理由
リーダーシップという言葉には、本や研修で見聞きした定義がたくさんあります。そのため、次のような書き方になりがちです。
- 定義の説明から始め、字数の多くを使ってしまう
- 「ビジョンを示す」「率先垂範する」「信頼関係を築く」など、誰にでも当てはまる言葉が並ぶ
- 自分が何をしたか、何をするかが、最後まで出てこない
評価する側は、受験者の考えるリーダーシップの定義より、受験者がその職場でどう人を動かすかを知りたいと考えられます(推測)。定義は1〜2文で十分です。残りの字数を、自分の行動と職場の場面に使います。
自分の行動を材料にする
まず、自分が人を動かした経験を書き出します。役職がなくても、材料はあります。
| 材料の種類 | 書き出す問い |
|---|---|
| 方向を示した | チームの進む方向を、自分が言葉にしたことはあるか |
| 任せた | 自分でやれる仕事を、あえて人に任せたことはあるか |
| 巻き込んだ | 他部署や上司を動かして、物事を進めたことはあるか |
| 支えた | 困っている人を、答えを渡さずに支えたことはあるか |
| 失敗した | うまく人を動かせなかった経験と、そこから変えたことは何か |
それぞれに、事実(いつ、誰と、何を)、自分の行動、相手や結果の変化を1行ずつ書きます。失敗の材料も大切です。うまくいかなかった経験から、自分のリーダーシップの考えが生まれていることが多いからです。
職場の場面を一つ選ぶ
材料が集まったら、論文の中心に置く場面を一つ選びます。選ぶ基準は次の3つです。
- 昇格後の役職でも、同じような場面が起きそうか
- 自分の行動と、相手の変化の両方を書けるか
- 数字か、目に見える変化で示せるか
場面を複数並べると、一つあたりの字数が減り、自分の行動と相手の変化の両方を書く余裕がなくなります。中心の場面は一つにし、ほかの経験は補う1文にとどめます。
目指す姿と打ち手
リーダーシップの論文でも、構成は課題と解決策の論文と同じ骨組みで考えると書きやすくなります。
- 目指す姿:昇格後、自分のチームをどんな状態にしたいか(期限と数字を入れる)
- 今の姿との差:今、何が足りないか(職場の事実で)
- 自分の打ち手:その差を埋めるために、リーダーとして何をするか(2〜3つ)
- 効果の確かめ方:どうなれば、うまくいったと言えるか
打ち手は、「意識を高める」ではなく、行動で書きます。たとえば、週1回の短い振り返りの場を作る、判断の基準を文書にして任せる範囲を広げる、などです。
部下・周囲の変化で示す
リーダーシップは、本人の行動だけでなく、周りがどう変わったかで示すと、説得力が増します。
- 部下が、自分から提案するようになった
- 判断を待たずに、決められた範囲で動けるようになった
- 他部署からの相談が、自分を通さずに担当者どうしで進むようになった
経験の部分では「変わった事実」を、昇格後の部分では「変えたい姿」を書きます。この2つが対応していると、論文の筋が通ります。
周りの変化は、本人の感想より、外から見て分かる形で書きます。「雰囲気が良くなった」より、「朝の打ち合わせで若手から議題が出るようになった」のほうが、読み手が場面を思い浮かべられます。数字がなくても、誰が、いつ、何をするようになったかが書ければ十分です。
経験と昇格後の打ち手をつなぐ
経験だけを詳しく書くと、思い出話に見えます。昇格後の打ち手だけを書くと、根拠のない計画に見えます。この2つは、「経験から学んだこと」の1文でつなぎます。
つなぎの1文には、うまくいった理由か、うまくいかなかった理由を入れます。理由が書けると、昇格後に同じやり方を使う根拠になり、立場が変わったときにどこを変えるかも説明できます。
架空の例:1文の比較
ホテルのフロントで主任をしているOさん(32歳)は、リーダーシップの論文で、最初は次のように書いていました。比べるために、1文だけ例を示します。
- 抽象論の文:私はメンバーとの信頼関係を築き、率先垂範でチームを導く。
- 材料を入れた文:私は夜勤の引き継ぎを、口頭から5項目の記録に改め、若手が自分で判断できる範囲を広げた。
前の文は、どのリーダー論の本にも出てくる言葉の組み合わせで、Oさんが何をしたかは分かりません。後の文は、変えた手順と、その結果として若手に起きた変化が入っているので、Oさんの考えるリーダーシップが行動の形で伝わります。
点検の問い
書き終えたら、次の問いで見直します。
| 問い | 「いいえ」のときに足すもの |
|---|---|
| 定義の説明が、全体の1割以下に収まっているか | 定義を削り、場面に字数を回す |
| 自分の行動が、具体的な動詞で書かれているか | 誰に、何を、いつ |
| 相手や周りの変化が書かれているか | 変わった事実、数字 |
| 昇格後の打ち手に、期限と数字があるか | いつまでに、どれだけ |
| 経験と昇格後の打ち手がつながっているか | 経験から学んだことを1文 |
「率先垂範」「信頼関係」のような言葉が残っていたら、その言葉で自分が実際にしたことを1つ書き出し、言葉と入れかえます。入れかえの手順は論文で「一般論」と言われたとき、材料のカードの作り方は昇任・昇格論文は「書く前」で決まるで読めます。
時間内に書くための準備
当日にテーマが出る形式では、リーダーシップのテーマが出たときに使う材料を、前もって1枚にまとめておきます。
- 中心に置く場面(1つ)と、その事実
- 自分の行動(具体的な動詞で3つ)
- 相手や周りの変化(数字か、目に見える変化)
- 昇格後の打ち手(2つ。期限つき)
当日は、この1枚を見ながら、テーマの問われ方に合わせて順番を入れかえます。「求められる役割」と問われたら打ち手を先に、「あなたの経験」と問われたら場面を先に置く、という具合です。
1枚を作ったら、問われ方を変えて骨組みだけを作る練習を2〜3回しておくと、当日の組み直しが速くなります。時間の配分そのものは、試験時間内に論文を書き切るを参考にしてください。
役職によって書く範囲を変える
同じリーダーシップのテーマでも、受ける役職によって、動かす相手と範囲が変わります。材料を選ぶときの目安です。
| 受ける役職 | 動かす相手 | 中心に置きやすい行動 |
|---|---|---|
| 主任 | 後輩、同じ係の仲間 | 手本を示す、教える、困りごとを上に上げる |
| 係長 | 係のメンバー全体、隣の係 | 役割を決めて任せる、係の進め方を変える |
| 課長 | 係長、他部門、上の役職 | 方針を決める、人の配置を変える、やめることを決める |
課長の試験で、後輩一人を励ました話だけを中心に置くと、範囲が狭く見えます。逆に主任の試験で部門の方針を語ると、立場とずれて見えることがあります。
よくある書き方と直し方
リーダーシップの論文で起きやすい書き方を、評価する側の見え方と一緒に整理します。
| よくある書き方 | 評価する側の見え方 | 直し方 |
|---|---|---|
| 自分が一番遅くまで残り、背中で示した話 | 本人の頑張りは分かるが、人がどう動いたかが見えない | 周りの誰が、何を始めたかを書く |
| 上司の指示をメンバーに伝えて進めた話 | 伝達役にとどまり、自分の判断が見えない | 伝えるときに自分が決めたこと(順番、分担)を書く |
| 失敗談を反省の言葉で締める | 反省は分かるが、次に何を変えるかがない | 失敗から変えた行動と、昇格後にどう生かすかを書く |
どの直し方も、主語を「私」だけにしないことが共通しています。自分の行動の後に、相手や周りの変化を1文添えるだけでも、読まれ方が変わります。
よく似たテーマとの違い
「リーダーシップ」と近いテーマに、「人材育成」「チームワーク」「組織の活性化」などがあります。材料は重なりますが、中心に置くものが違います。
- リーダーシップ:自分が、人を動かす行動
- 人材育成:部下が、育つ過程
- 組織の活性化:チーム全体の、仕組みや雰囲気の変化
同じ材料カードから、テーマに合わせて中心を変えられるようにしておくと、当日にテーマが出る形式でも対応しやすくなります。
書いたものを見てもらうには
リーダーシップの論文は、自分の経験を書く分、書いた本人には「行動を書いたつもり」になりやすいテーマです。読む人にとっては、理念の言葉の繰り返しにしか見えていないこともあります。
昇格パスの論文の演習では、区分(民間・自治体・教員)を選んで練習できます。材料の整理、骨組み、時間を計った本番、観点ごとの採点、書き直しの比較までを一人で進められます。採点では、本文の該当箇所を根拠として示します。
本文を代わりに書くことはしません。論文は無料体験の対象に入っていないため、まずは演習の内容をプランの説明でご確認ください。昇格面接の3問は、登録の後に無料で試せます。
関連する記事