遅刻が続く部下には、早く注意しなければ、と考えがちです。ただ、いきなり注意から入ると、部下は言い訳か沈黙で身を守り、話が進まないことがあります。
昇格試験やアセスメントの面談演習でも、勤怠や規律の問題を抱えた部下との面談が出ることがあります。この記事では、決まりを伝えることと、事情を聞くことを両立させる進め方を説明します。
面談の基本の流れは、部下面談の練習にまとめました。ここでは、勤怠の場面に絞って説明します。
※この記事に出てくる会社、人物、会話は、説明のために作った架空のものです。昇格パスの練習の場面の中身(部下の事情や話の展開)には触れていません。
勤怠の面談で見られること
勤怠の面談では、上司に2つの役目があります。職場の決まりを守らせる役目と、部下の事情をくんで、続けて働けるようにする役目です。
どちらか一方だけでは、面談は片寄ります。決まりだけを伝えると、遅刻の原因が残ったままになります。事情だけを聞くと、職場の決まりがあいまいになり、ほかの部下から見て不公平になります。
勤怠の場面の演習では、決まりと事情のどちらに偏ったかが、そのまま記録に表れやすいと考えられます(推測)。点検するときは、次の5つを見ます。
- 決めつけずに、事実を確かめているか
- 責めずに、遅刻の背景を聞き出しているか
- 決まりを、ぼかさずに伝えているか
- 部下と一緒に、改善の具体的な約束を決めているか
- 上司として自分がすることも決めているか
事実を確かめる質問
面談の前に、遅刻の記録を確かめておきます。いつから、何回、何分くらいか。曜日や時間帯に偏りはないか。遅刻で仕事にどんな影響が出たか。
面談では、記録を示しながら、責める調子にならないように聞きます。
- 「先月の記録では、始業に間に合わなかった日が4回ありました。本人の記憶とも合っていますか」
- 「遅れる日は、前もって分かることが多いですか。当日の朝に分かることが多いですか」
- 「遅れた日、仕事の段取りで困ったことはありましたか」
遅刻の面談で「なぜ」をくり返すと、部下は言い訳を探す側に回ります。理由を聞くより先に、遅れた日の出来事を順に聞くほうが、事実が集まります。
記録と本人の受け止め方が違うときは、言い争わずに「記録ではこうなっています。一緒に確かめましょう」と伝えます。事実の確認に時間を使うことは、遠回りではありません。
背景にある事情の聞き方
遅刻の背景はさまざまです。体調や家族のことのように話しにくい事情もあれば、決まりの受け止め方が上司と違っていた、という単純な食い違いのこともあります。上司が一つに決めつけず、本人の説明を聞きます。
- 「始業の時刻と、遅れるときの連絡の仕方は、どう理解していますか」
- 「仕事以外のことは、言いたくなければ言わなくてかまいません。職場の側で変えられることがあれば知りたいです」
私生活には、必要以上に踏み込みません。上司が知る必要があるのは、仕事にどう影響しているかと、職場で何ができるかです。
部下が話したことは、短く言い直して受け止めます。「朝礼の時刻を、始業の時刻と別に考えていた、ということですね」。受け止めることと、遅刻を認めることは別です。気持ちには寄りそっても、決まりは決まりとして残ります。
決まりの伝え方
事情を聞いた後で、職場の決まりをはっきり伝えます。順番が逆になると、決まりの話が先に立ち、事情が出てこなくなりやすいと考えられます(推測)。
伝えるときは、人ではなく、仕事への影響を主語にします。
- 弱い言い方:「だらしないのは困る」
- 伝わる言い方:「始業の時間に来られないと、朝の受け渡しが遅れ、ほかの人の作業が止まります」
ぼかさないことも大切です。「なるべく気をつけて」では、何をすればよいのかが伝わりません。始業の時間に間に合うこと、遅れるときは始業前に連絡すること、のように、守ってほしいことを具体的に言います。
遅刻が続いたときに就業規則でどう扱われるかは、決まりとして落ち着いて伝えてかまいません。ただし、処分や評価をその場で上司が言い渡すことは避けます。扱いは就業規則と人事の手続きで決まるものなので、伝える前に人事の部門に確かめておきます。
改善の約束と確認の日
勤怠の面談の締めでは、「気をつけます」で終わらせないことが要点です。守ることを行動の形にして、表に残します。上司の側が変えることも、同じ表に並べます。
| だれが | 何を | いつまで |
|---|---|---|
| 部下 | 遅れそうなときは、始業の30分前までに電話で連絡する | 明日から |
| 部下 | 遅れた日があれば、その日の出来事を短く書いておく | 次の面談まで |
| 上司 | 始業と朝礼の時刻の扱いを、係の全員に文書で示し直す | 今週中 |
| 上司と部下 | もう一度話す | 2週間後の金曜 |
部下から、職場への要望が出ることもあります。その場で「そうしよう」と約束せず、就業規則や職場の決まりで何ができるかを確かめてから答えます。できない約束は、後で信頼を失います。
確認の日を決めておくと、上司が見ているという姿勢が伝わります。改善が見られたら、その日にきちんと認めます。
専門の窓口につなぐ場合
遅刻の背景に、体調や心の不調がうかがえることがあります。本人から、体のつらさを話されたときです。
上司が病気かどうかを判断したり、治し方を助言したりはしません。会社の産業医や保健師、相談窓口、人事の部門につなぐことが役目です。厚生労働省の指針では、職場の心の健康づくりを4つのケアに分けています。上司が行う「ラインによるケア」は、職場の環境の改善や、部下からの相談への対応を指します。
つなぐときは、責める話と分けて伝えます。「遅刻を責めるためではなく、体のことが心配なので、一度相談してみてほしい」。本人の同意なく、事情をほかの人に広めないことにも気をつけます。
面談演習でこうした話が出たときも、同じ考え方で対応します。自分で解決しようとせず、窓口につなぐことを約束として残します。
架空の例:検査室の始業の時刻
場面:精密機器の工場で検査の係長をしているXさん(38歳)は、入社2年目の部下と面談します。先月、始業の8時30分を過ぎて検査室に入った日が4回ありました。遅れはどれも数分です。
最初の練習でのXさんの切り出しは、次のようなものでした。
最近、遅刻が多いよね。社会人として、時間は守らないと。
部下は「すみません」と言ったきり、黙ってしまいました。評価する側から見ると、事実の確認も、事情を聞く問いもありません。
Xさんは、切り出しを次の形に直しました。
今日は、朝の出勤のことで話したいと思います。責めるための面談ではありません。先月、8時30分を過ぎて入室した日が4回ありました。まず、記録が本人の記憶と合っているか、一緒に見てもらえますか。
部下は記録を見て、「朝礼が始まる時刻に入ればよいと思っていました」と話しました。前の職場では、着替えの時間が始業に含まれていたそうです。
Xさんは、責める言葉を足さずに、この職場の始業の扱いを説明しました。そのうえで、係のほかの人も同じ受け止め方をしていないかを確かめると約束しました。決まりの伝え方が足りなかった面もある、と見たからです。
この例の遅刻は、受け止め方の食い違いから来ていました。実際の職場や演習では、別の事情が出てくることもあります。決めつけずに事実から入る、という順番は同じです。
面談の後の記録
面談が終わったら、その日のうちに短い記録を残します。書くのは、確かめた事実、本人が話した範囲の事情、決めた約束、次に話す日の4つです。
記録は、評価や処分のためだけのものではありません。2週間後に話すとき、前回の約束を正しく思い出すための資料です。上司の記憶だけに頼ると、何を約束したかで食い違いが生まれます。
体調や家族の事情など、本人が話してくれた私的なことは、必要な範囲だけを書きます。記録の置き場所と、見られる人も決めておきます。
面談演習でも、面談の後に記録や報告を書かせる様式があります。決めた約束と次の日程を、短く書ければ十分です。
面談演習でどの行動が評価されやすいかは、面談演習の評価の観点を一覧にするで、自分で採点できる点検表にまとめました。遅刻の背景に体調の不調がうかがえるときの進め方は、元気がない部下との面談で説明しています。
一人で確かめるときの限界
記録の示し方や決まりの伝え方は、メモにして準備できます。けれども、記録を見せたときに部下が黙るのか、言い返すのかで、次の一言は変わります。その切り替えは、反応の読めない相手と話してはじめて試せます。
昇格パスの無料体験では、登録の後に、部下面談の1場面(評価に納得していない部下)を文字で1回練習できます。この記事の場面とは違いますが、事実を示してから相手の受け止めを聞く順番は共通です。部下役は、聞き方によって話す内容が変わります。終わると評価票で、観点ごとの評価と、根拠になった自分の発言を確かめられます。
個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。注意の前に事実を置く切り出しを、一度試してみてください。
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