組織の変更、新しい仕組みの導入、担当の入れ替えなど、上司は部下に変化を伝える役目を負います。そのとき、「今のままがいい」「なぜ自分なのか」と強く嫌がる部下がいます。
この記事では、変化を嫌がる部下との面談で、抵抗の理由を聞き、会社の方針を伝え、次の一歩を合意する進め方を説明します。昇格試験の面談演習でも、異動や新しい仕事に納得しない部下の場面はよく出る題材です。
※この記事に出てくる職場と会話は、説明のために作った架空のものです。異動や配置の決まりは会社によって違います。実際の面談では、勤め先の決まりと人事の部門の案内に従ってください。
抵抗の裏にある理由の種類
「嫌です」という言葉の裏には、さまざまな理由があります。理由によって、上司が打てる手が変わります。
| 理由の種類 | 部下の言葉の例 | 上司が打てる手の例 |
|---|---|---|
| 仕事への不安 | 「新しい仕事は自分にできるかわからない」 | 引き継ぎの期間、教える人、困ったときの相談先を決める |
| これまでの仕事への愛着 | 「今の仕事を育ててきたのに」 | これまでの成果を認め、引き継ぎで生かす場を作る |
| 生活の事情 | 「今の働き方が変わると困る事情がある」 | 中身に立ち入りすぎず、会社の決まりで配慮できることを人事に確かめる |
| 納得できない | 「なぜ自分なのか説明がない」 | 選んだ理由と、期待していることを伝える |
| 評価への不安 | 「新しい部署で評価が下がるのでは」 | 評価の仕方と、上司が見ていくことを伝える |
表に出ている訴えと、本当の理由が違うこともあります。「向いていない」と言いながら、本当は、今年取ろうとしていた資格の勉強の予定が崩れるのを気にしている、ということもあります。急いで本音を暴こうとせず、話しやすい空気を作ります。
最初に聞くこと
面談の最初は、説得ではなく、聞くことから始めます。最初に説得を始めると、部下は反論を準備するようになり、本当の理由が出てこなくなります。
- 「今回の話を聞いて、率直にどう感じましたか」
- 「変わることのうち、一番引っかかっているのはどの部分ですか」
- 「今の仕事で、手放したくないと思っていることはありますか」
部下が話したことは、短く言い直して受け止めます。「今の仕事を一から作ってきたので、離れるのが残念、ということですね」。受け止めることと、異動を取りやめることは別です。気持ちには寄りそいながら、方針は方針として残ります。
会社の方針の伝え方
聞いた後で、会社の方針を伝えます。伝えるときは、次の3つをそろえます。
- なぜ変わるのか:組織として何を目指しているか
- なぜあなたなのか:選んだ理由と、期待していること
- 何が決まっていて、何が決まっていないか:変えられないことと、相談できること
2の「なぜあなたなのか」は、部下が一番知りたいことの一つです。「人が足りないから」だけでは、穴埋めに選ばれたと感じます。部下のどんな力を、新しい場所でどう生かしてほしいかを、具体的に伝えます。
上司自身が方針に納得していない場合でも、部下の前で会社を批判するのは避けます。上司としては、方針が決まったら組織として実行する立場です。自分の意見は、上に伝える場で伝えます。
部下が選べることを示す
変化そのものは変えられなくても、部下が選べることを示すと、受け止め方が変わることがあります。
- 引き継ぎの進め方(誰に、どの順で、いつまでに)
- 新しい仕事の始め方(最初に担当する範囲、教わる相手)
- 今の仕事の成果を、どう残すか(手順書にまとめる、後任に教える)
「異動するか、しないか」の二択を迫られたときは、どちらかを即答しません。会社の決定は変えられないことを伝えたうえで、「どうすれば不安を小さくできるか、一緒に考えたい」と、別の問いに置きかえます。
できない約束はしません。「半年で戻れるようにする」「評価は下げない」などは、上司一人で約束できないことが多いはずです。自分の権限でできることと、人事に相談することを分けて伝えます。
合意と次の確認
変化の面談の締めでは、「変わること」を前提にした段取りを、部下と上司で分け合います。部下の宿題だけが並ぶと、押しつけられた印象が残ります。
| だれが | 何を | いつまでに |
|---|---|---|
| 部下 | 今の仕事の引き継ぎの一覧を作る | 来週の金曜 |
| 上司 | 新しい部署の上司と、最初の1か月の仕事の範囲を相談する | 来週中 |
| 上司 | 本人が気にしている点のうち、人事に確かめられることを確かめる | 今週中 |
| 上司と部下 | もう一度話す | 2週間後 |
この面談で、部下が納得しきる必要はありません。気持ちの整理には時間がかかります。2週間後にもう一度話す日を決めておくことが、急がせないという意思表示にもなります。
面談の前に確かめておくこと
変化を伝える面談は、上司が答えられない質問が出やすい場面です。前もって次のことを確かめておきます。
- 決まっていること:時期、新しい担当や部署、変わる理由として会社から示されていること
- 決まっていないこと:引き継ぎの進め方、最初に任せる範囲など、相談で決められること
- 自分の権限:自分で決められることと、人事や上の判断が要ること
- 本人のこれまで:今の仕事で残した成果と、周りからの評判
2と3を分けておくと、面談の中で「それは一緒に決めましょう」と言える範囲がはっきりします。部下が選べることを示す材料にもなります。
部下の言葉の受け止め方
強い言葉が出たときは、言葉そのものより、その下にある気持ちを短く返します。
- 「新しい仕事なんて覚えられません」→「覚えることの多さが不安なんですね」
- 「どうせ決まっているんでしょう」→「相談の余地がないように感じているんですね」
- 「今のままでいいじゃないですか」→「今のやり方に、手応えを感じているんですね」
返した後は、言い分の中身を確かめる問いを一つ足します。「特に不安なのは、どの作業ですか」のように聞くと、話が気持ちから事実に移ります。
面談演習での評価
変化を嫌がる部下の場面では、受験者は会社の側に立つ役目と、部下の話を聞く役目を同時に負います。どちらかに寄りすぎていないかを、次の点で振り返ります(推測)。
- 最初に説得せず、部下の気持ちと理由を聞いているか
- 表の訴えの裏にある理由に、問いかけでたどり着こうとしているか
- 会社の方針を、ぼかさずに伝えているか
- できない約束をしていないか
- 部下が選べることを示し、次の一歩を合意しているか
演習では、部下役が強く反発してくることもあります。反発に反論で返すと、言い合いになります。反発の中にある不安を言葉にして返すと、話が前に進みやすくなります。
辞めたいと言い出す部下との面談の進め方は、辞めたいと言う部下との面談で説明しています。
架空の例:最初の切り出し
場面:食品卸の会社で物流課の課長をしているFさんは、入社10年目の部下に、来月から配送計画の担当へ移ることを伝えます。部下は、今の倉庫の在庫管理のやり方を一から作ってきました。
最初の練習で、Fさんは次のように切り出しました。
会社の決定なので、来月から異動してもらいます。新しい部署もやりがいがあるよ。
部下は「わかりました」とだけ言い、黙ってしまいました。評価する側から見ると、部下の気持ちも理由も聞いておらず、選んだ理由も伝えていません。
Fさんは、次の形に直しました。
今日は、来月の担当の変更について話したいと思います。まず、話を聞いてどう感じたか、率直に聞かせてもらえますか。そのうえで、なぜあなたにお願いしたいのかも、きちんと説明させてください。
聞くことから始め、選んだ理由を伝える予告もしています。この後の話の進み方は、部下の答え次第です。
一人で確かめるときの限界
方針の伝え方や受け止めの言葉は、事前に書き出せます。けれども、部下役に強く反発されたときに、反論せずに気持ちを返せるかは、思いどおりに答えてくれない相手と話して確かめるしかありません。
昇格パスの無料体験では、登録の後に、部下面談の1場面(評価に納得していない部下)を文字で1回練習できます。この記事の場面とは違いますが、変えられない会社の決定を伝えながら、相手の気持ちと理由を聞く点は共通です。部下役は、聞き方によって話す内容が変わります。終わると評価票で、観点ごとの評価と、根拠になった自分の発言を確かめられます。
個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。説得より先に聞く順番を、一度試してみてください。
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