最近、部下の元気がない。ミスが増えた、口数が減った、表情が暗い。上司として気づいても、どう声をかければよいのか、どこまで聞いてよいのか迷うものです。
昇格試験やアセスメントの面談演習でも、様子の気になる部下との面談が出ることがあります。この記事では、上司としてできることと、専門家に任せることを分けたうえで、面談の進め方を説明します。
この記事は、職場の上司の対応について書いたものです。病気かどうかの判断や、治療についての助言は扱いません。心身の不調が心配なときは、産業医や保健師、医療機関など、専門の窓口に相談してください。
※この記事に出てくる会社、人物、会話は、説明のために作った架空のものです。昇格パスの練習の場面の中身(部下の事情や話の展開)には触れていません。
上司の役目と専門家の役目
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、職場の心の健康づくりを4つのケアに分けています。セルフケア、ラインによるケア、事業場内の産業保健スタッフ等によるケア、事業場外の資源によるケアです。
このうち上司が担うのが「ラインによるケア」です。職場の環境を改善することと、部下からの相談に対応することが中心になります。
役目を表にすると、次のようになります。
| だれが | 役目 |
|---|---|
| 上司 | いつもと違う様子に気づく、声をかけて話を聞く、仕事の量や分担を調整する、窓口につなぐ |
| 産業医・保健師など | 健康の状態を見立てる、働き方について意見を出す、医療機関につなぐ |
| 人事の部門 | 休みや勤務の制度の案内、職場の調整の手伝い |
上司が病気かどうかを判断する必要はありません。むしろ、判断しようとすると、部下を傷つけたり、必要な相談を遅らせたりするおそれがあります。上司の役目は、気づいて、聞いて、つなぐことです。
声のかけ方と場の作り方
声をかけるきっかけは、「いつもと違う」と感じた具体的な事実です。気分や性格ではなく、目に見える変化をもとにします。
- 「このところ、お客様に聞き返される場面が増えたように見えて、気になっていました」
- 「ここ数週間、表情が硬い日が多いように感じています」
場所は、ほかの人に話が聞こえない部屋を選びます。時間に余裕のある日にし、席を立つ時刻が迫っていない時間帯にします。
最初に、面談の目的を伝えます。「責めるためではなく、心配しているので話を聞きたい」と言葉にすると、部下は身構えにくくなります。
話してくれなくても、無理に聞き出しません。「いつでも話を聞く」と伝えて、その日は終えてかまいません。声をかけたこと自体が、気にかけているというしるしになります。
聞いてよいこと・踏み込まないこと
面談で聞くのは、仕事と、仕事への影響です。
| 聞いてよいこと | 踏み込まないこと |
|---|---|
| 仕事の量や中身で、負担になっていること | 病名や、病気かどうかの見立て |
| 職場の人間関係で、困っていること | 家族や私生活の細かい事情を聞き出すこと |
| 体のことで気になっていること(本人が話す範囲で) | 「気の持ちよう」「がんばれ」といった励まし |
| 上司として手伝えること | 本人の同意なく、話の中身をほかの人に伝えること |
部下が話したことは、短く言い直して受け止めます。「仕事が重なって、気が休まらないということですね」。評価や助言は急がず、まず聞くことに徹します。
元気がない理由を問いただすと、本人は理由を説明できない自分を責めがちです。理由を聞くより、「どんな場面がしんどいか」を聞くほうが、答えやすくなります。
専門の窓口につなぐ伝え方
話を聞く中で、体調や心の不調がうかがえたら、専門の窓口につなぎます。つなぐ先は、職場によって違います。
- 会社の産業医や保健師、健康管理の部門
- 会社が用意している相談窓口(社内、または社外の相談機関)
- 人事の部門(休みや勤務の制度の案内)
- 公的な相談窓口(厚生労働省の「こころの耳」では、電話・メール・SNS での相談先を案内しています)
伝えるときは、部下を病人扱いしないように気をつけます。
「あなたのことが心配です。会社には、体や気持ちのことを相談できる窓口があります。一度、話をしてみませんか」
「行きなさい」と命じるより、心配していることを先に伝えます。本人が迷うときは、窓口の案内を一緒に見るなど、相談までの手間を減らします。
命にかかわるような話や、すぐに対応が必要な様子が見えたときは、一人で抱えずに、その場で人事や産業保健のスタッフ、上の上司に相談します。
面談の記録と人事への相談
面談の後は、短い記録を残します。書くのは、気づいた事実、本人が話した範囲の内容、決めたこと、次に話す日です。
本人の健康にかかわる内容は、扱いに気をつけます。記録の置き場所と、見られる人を限ります。人事や産業医に相談するときは、原則として本人の了解を得てから、必要な範囲だけを伝えます。
仕事の調整も、上司の大切な役目です。担当の量を減らす、締切を見直す、ほかの人と分担するなど、自分の権限でできることから手を付けます。調整の中身は、本人と相談して決めます。
面談演習で気をつけたい線
演習でも、上司の役目は職場と同じで、気づいて、聞いて、つなぐことです。演習の場では、つい「上司として何とかしてあげたい」と、自分で解決しようとしがちです。次のような線を越えていないかを、振り返りで確かめます(推測)。
- 決めつけずに、目に見える変化から声をかけたか
- 本人が話し終える前に、助言や励ましを始めなかったか
- 病気かどうかの見立てや、治し方の助言を口にしなかったか
- 窓口の案内が、命令や突き放しに聞こえなかったか
- 上司が一人で抱え込まなかったか
演習の中で、部下役の悩みが消えることはまずありません。上司の役目の範囲を守り、専門の窓口への道を示せたかどうかが、職場でも演習でも大事な点だと考えられます。
声をかけた後に続けること
面談は一度で終わりではありません。声をかけた後も、次のことを続けます。
- 短い声かけを続ける:面談の場を何度も設けるより、ふだんの「おはよう」「今日はどう」を欠かさない
- 仕事の調整を見直す:減らした仕事が、本人の負担にどう効いているかを、本人に聞いて確かめる
- 周りの人への説明を考える:仕事の分担を変えるとき、周りにどう伝えるかを本人と相談する。理由を細かく話す必要はない
- 自分も一人で抱えない:上司自身が迷ったら、人事や産業保健のスタッフに相談の仕方を聞く
周りの人から「最近どうしたの」と聞かれることもあります。本人の了解のない話は伝えず、「仕事の分担を少し変えている」とだけ答えます。
架空の例:ホテルのフロント
場面:ホテルのフロントの係長をしているJさん(42歳)は、入社4年目の部下の様子が気になっています。この1か月、接客中の声が小さくなり、お客様に聞き返される場面が目立ちます。シフトの交代を急に頼んでくる日も、2回ありました。
最初の練習でのJさんの声かけは、次のようなものでした。
最近、接客の声が小さいよ。お客様に失礼だから、しっかりしてよ。
部下はうつむいたまま、「すみません」と言っただけでした。評価する側から見ると、変化を注意の材料にしていて、本人の様子に目が向いていません。
Jさんは、声かけを次の形に直しました。
少し時間をもらえますか。注意のための話ではありません。この1か月、いつもと様子が違うように見えて、気になっていました。もし何か困っていることがあれば、聞かせてください。言いにくければ、今日でなくてもかまいません。
具体的な変化を伝え、目的を示し、話すかどうかを本人に委ねています。この後の話の進め方は、部下の答え次第です。
面談演習でどの行動が評価されやすいかは、面談演習の評価の観点を一覧にするで、点検表にまとめました。部下からハラスメントの相談を受けたときの進め方は、ハラスメントの相談を受けた面談で説明しています。
一人で確かめるときの限界
最初の声かけの言葉は、紙の上で整えられます。難しいのは、相手が黙ったときや話をそらしたときに、押しすぎず引きすぎずに次の言葉を選ぶことです。そこは、反応の読めない相手と話さないと試せません。
昇格パスの無料体験では、登録の後に、部下面談の1場面(評価に納得していない部下)を文字で1回練習できます。この記事の場面とは違いますが、目に見える事実から切り出し、相手が話し終えるまで聞く姿勢は共通です。部下役は、聞き方によって話す内容が変わります。終わると評価票で、観点ごとの評価と、根拠になった自分の発言を確かめられます。
個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。まずは、責めない切り出しを一度試してみてください。
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