メールやメモの束を、役職者として処理する演習では、答えの多くが部下や他部署への指示になります。いわゆるインバスケット形式の演習です。

答案を見直すと、「対応をお願いします」「検討しておいてください」で終わっている指示が多い、ということがあります。書いた本人には中身が見えていても、読む側には何をさせたいのかが伝わりません。

この記事では、評価する側に伝わる指示文の要素と、よくある書き方の直し方を説明します。

※この記事に出てくる会社、人物、案件は、説明のために作った架空のものです。

指示文で評価されること

案件処理演習では、管理職が全部を自分で処理する答案は、評価されにくいと考えられています。部下や関係部署の力を借りて、組織として仕事を進めることが求められるからです。

一方で、ただ任せるだけの答案も弱く見えます。方向も期限も示さずに渡すと、管理を手放したように読まれやすいからです(推測)。

指示文は、部下に向けた文であると同時に、採点する人に自分の考えを見せる文でもあります。要素がそろうほど、何をどこまで考えたかが紙の上に残ります。入れたいのは、次の5つです。

要素 書くこと 弱い書き方の例
誰に 担当者か部署を、役割で 「誰か」「関係者で」
何を 具体的な動き 「対応する」「検討する」
いつまでに 日付や時刻 「早めに」「後日」
どうやって 方針、判断の基準、使ってよい権限 (書かない)
どう確かめるか 報告の期限と形 (書かない)

5つすべてを毎回書く必要はありません。急ぐ案件や重い案件ほど多く、軽い案件は「誰に」「何を」「いつまでに」の3つだけでも足ります。

「誰に」:任せる相手の選び方

任せる相手は、その案件に関係する役割の人から選びます。演習の資料には、組織図や部下の紹介が付いていることが多いので、最初に目を通しておきます。

迷ったときは、次の順で考えます。

  1. その仕事の担当がはっきりしているなら、担当者に
  2. 担当がいない、または担当者が忙しすぎる設定なら、その上の係長や主任に
  3. 育てたい部下がいる設定なら、その部下に(「育成の機会として任せる」と一言添える)

自分にしかできないことは、自分でやります。謝罪の場に出る、上の人に説明する、人事にかかわる判断をする、方針を決める、といったことです。ここを部下に任せると、責任を渡したように読まれます。

組織図と、実際の報告の流れが違う設定もあります。報告や相談の相手は、資料の中で「誰が誰に報告しているか」で確かめます。

「何を」:目的と完了の形

「対応してください」は、何をすれば終わりなのかが書かれていません。動きを表す言葉に置きかえ、どうなれば完了かを書きます。

  • 「対応する」→「先方に電話し、遅れの理由と新しい納期を伝える」
  • 「調べる」→「先月の記録から、同じ不具合が何件あったかを数える」
  • 「検討する」→「AとBの2案について、費用と期間を表にまとめる」

目的も一言添えます。「来週の打合せで先方に説明するため」と書けば、部下は何のための作業かがわかります。評価する側には、判断の理由として伝わります。

「いつまでに」と報告のさせ方

期限は、日付か時刻で書きます。「至急」「早めに」は、人によって受け取り方が違います。演習の設定の日付に合わせ、「本日17時まで」「水曜の午前中まで」のように書きます。

自分が出張や休みで不在になる設定では、報告の受け方も書きます。「不在の間は課長代理に報告し、判断に迷う点はメールで私に送る」といった形です。誰が代わりに判断するかを決めておくと、留守の間に仕事が止まりません。

報告の形も短く指定します。

  • 口頭か、メールか、書面か
  • 何を報告するか(結果だけか、途中の状況もか)
  • 問題が起きたら、期限を待たずに知らせるか

任せきりにしない一文

任せ方には段階があります。細かく指示して実行だけさせる形から、判断ごと任せる形までです。

演習で評価されやすいのは、方向や判断の基準を示したうえで任せ、報告の期限を付ける形だと考えられます。次のような一文を、指示文の最後に添えます。

  • 「値引きは5%までなら、あなたの判断で決めてかまいません。それを超える場合は相談してください」
  • 「進め方は任せます。木曜の朝に、決めた内容を一言報告してください」
  • 「先方が納得しない場合は、私から改めて連絡すると伝えてください」

この一文があると、任せる範囲と、自分が責任を持つ範囲の線が見えます。部下の立場から見ても、どこまで自分で決めてよいかがわかります。

よくある書き方と直し方

場面:イベント用の音響や照明の機材を貸し出す会社で、貸出課の課長を務めて1年になります。部下の主任から、次の連絡が届いていました。

先週末に機材をお貸ししたイベント会社から、スピーカーをつなぐ部品が足りず、催しの開始が30分遅れたと連絡がありました。どうしましょうか。

よくある書き方

至急対応してください。再発防止もお願いします。

評価する側から見ると、誰が、何を、いつまでにするのかがわかりません。「再発防止」の中身もないので、何を問題と見たのかも伝わりません。

直した書き方の骨組み

  • 誰に:連絡をくれた主任に
  • 何を:イベント会社に電話でお詫びし、遅れの経緯を聞き取る。同じ会社に今後貸し出す予定の機材も、部品の数を確かめ直す
  • いつまでに:本日15時までに電話。聞き取った内容を16時までに報告
  • どうやって:今回の貸出料の扱いは私が決める。先方から損の話が出たら、その場で約束せず私に回す
  • どう確かめるか:倉庫の担当と一緒に、出庫のときに部品を数える手順のどこで漏れたかを調べ、金曜までに報告

最後に、自分がすることも書きます。「イベント会社には、私からも明日あらためてお詫びの連絡を入れる」です。お詫びの場に責任者が出ることは、部下に任せられない部分です。

骨組みをそのまま文にすると長くなるので、本番では箇条書きでかまいません。様式に自由記述の欄しかない場合も、1行に1つの要素を書くと読みやすくなります。

時間が足りないときの優先

全部の案件に5つの要素を書く時間は、まずありません。急ぐ案件と重い案件には5つ、それ以外には3つ、処理しなくてよい案件には一言、と力を分けます。

時間が尽きそうなときは、重い案件の「誰に」「何を」「いつまでに」だけでも書いておきます。空欄より、短くても判断が見える答えのほうが、評価する側には伝わります。

書いた後に見直す5つの問い

練習で書いた答案は、次の5つの問いで見直します。1つでも「いいえ」があれば、その指示文に印を付けます。

  1. 指示を受けた人は、明日の朝、最初に何をすればよいかがわかるか
  2. 期限は、設定の中の日付か時刻で書いてあるか
  3. 部下が自分で決めてよい範囲が、一言でも書いてあるか
  4. 報告を、いつ、誰が、誰に返すかが書いてあるか
  5. 自分でやるべきことを、部下に回していないか

印の数を案件ごとに数えると、自分の癖が見えてきます。期限の書き忘れが多い人もいれば、任せる範囲をいつも書かない人もいます。癖がわかれば、次の練習では、その要素だけを意識して書けば足ります。

ここで扱った指示の書き方が、採点ではどの観点に数えられ、判断や問題発見とどう組み合わさるのかは、案件処理演習で評価される観点で確かめられます。情報が足りず、指示の中身を決めきれないときは、案件処理演習で「仮の判断」を書くの書き方が使えます。

一人で確かめるときの限界

指示文の5つの要素は、自分の答案に印を付けるだけでも点検できます。ただ、自分では「伝わっている」と思い込みやすく、読む側にどう見えるかは確かめにくいものです。

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