案件処理演習(いわゆるインバスケット形式)では、判断に要る情報がそろっていない案件がよく出てきます。誰の話が正しいかわからない、数字の根拠がない、関係者に連絡がつかない、といった案件です。
こうした案件で「事実を確認してから判断する」とだけ書くと、何も決めていない答えに見えることがあります。この記事では、情報が足りない中でも判断を示す「仮の判断」の書き方を説明します。
※この記事に出てくる案件と答えは、説明のために作った架空のものです。特定の試験や教材の問題ではありません。
情報が足りない案件が入る理由
実際の管理職の仕事では、情報がそろうのを待っていられない場面が多くあります。案件処理演習に情報の足りない案件が入るのは、その中でどう動くかを見るためだと考えられます(推測)。
この種の案件で答案に表れやすいのは、次の2つの力です。
- 足りない情報を見分け、誰に何を確かめるかを指示できるか
- 確かめている間にも、被害を広げないための手を打てるか
手を止めて保留するだけの答えと、分からないまま言い切る答えは、どちらも判断の筋が見えません。この両方を避けるための書き方が、仮の判断です。仮の判断が、採点の観点のうち主に「判断」と「問題を見つける」に関わることは、案件処理演習で評価される観点の表と照らすと分かりやすくなります。
「確認してから」で終わらせない
情報が足りない案件で、よく見る答えは次のようなものです。
事実関係を確認のうえ、対応を検討する。
この答えには、3つの抜けがあります。
- 誰が確認するのかがない
- いつまでに確認するのかがない
- 確認している間、どうするのかがない
1と2は、指示の型で埋められます。誰が、何を、いつまでに、どう報告するか。指示の書き方は、案件処理演習で伝わる指示文で説明しています。
この記事で扱うのは、3の「確認している間どうするか」です。ここに仮の判断を書きます。
情報が足りない案件の見分け方
情報が足りない案件は、読んだときに「何となく決めにくい」と感じるものです。その感じを、次の目印で言葉にしておくと、何を確かめればよいかが見えてきます。
- 片方の話しかない:対立や苦情で、一方の言い分だけが書かれている
- 数字の出どころがない:「かなり増えた」「少し高め」など、量や根拠がはっきりしない
- また聞きである:「〜と聞いた」「〜らしい」と、本人以外からの話になっている
- 時点が古い、またはずれている:報告の日付が前のもので、今の状況と合っているかわからない
- ほかの案件と食い違う:同じ出来事について、別の案件に違う内容が書かれている
目印が見つかったら、その目印をそのまま確認の指示に変えます。片方の話しかなければもう一方に聞く、数字がなければ記録を出させる、という形です。
仮の判断と確認を同時に書く
仮の判断は、「今わかっている範囲では、こう判断する。ただし、確認の結果がこうなら、こう変える」という形で書きます。
| 書くこと | 中身 |
|---|---|
| 今の判断 | 今ある情報で、ひとまずどうするか |
| その理由 | なぜその判断が今の時点で妥当か |
| 確認の指示 | 誰に、何を、いつまでに確かめさせるか |
| 分かれ道 | 確認の結果がAならこうする、Bならこうする |
仮の判断を決めるときの考え方は、次の2つです。
- 取り返しのつかないほうを避ける:あとで間違いとわかったときに、元に戻しにくい判断は控える。たとえば、事実がわからないうちに部下を処分する、取引先に約束をする、などは避けます
- 被害が広がるほうを止める:安全、情報の漏れ、お客さまへの影響など、待つ間に広がるものは、ひとまず止める手を打ちます
この2つが重なるときは、止める手を優先します。たとえば、お客さまがけがをするおそれのある設備は、原因がわかる前でも、ひとまず使うのを止めます。
資料にない前提で決めつけないことも大切です。「おそらく〜だろう」と書く代わりに、「〜の可能性がある。〜に確かめさせる」と書きます。
不在の上司・連絡がつかない場合
演習では、「上司は海外出張中で連絡がつかない」「あなたは明日から休み」といった設定がよく出ます。決裁や相談の相手がいない中で、どう動くかを見る設定です。
連絡がつかない相手が要る案件では、次の順で考えます。
- 自分の権限で決められる範囲を決める:仮の判断として、自分で決められることは決めます
- 代わりの相談相手を指定する:上司の上司、関係部署の責任者など
- 上司あての報告を残す:戻ったときに読めるよう、判断の内容と理由を短く書いておく
自分が不在になる設定なら、不在の間の代わりの担当と、自分への連絡の方法を決めておきます。「戻ってから考える」は、設定の制約を無視した答えに見えやすいところです。
架空の例での書き比べ
場面:あなたは、子ども向けの屋内の遊び場を3か所運営する会社のエリア課長です。明日から2日間、本社の会議に出るため、施設には行けません。ある施設の主任から次のメモが届きました。
「大きな遊具の、柱を留めるボルトが1本、少し緩んでいました。締め直したので今は大丈夫そうですが、業者に見てもらうか迷っています。業者に頼むと費用がかかります」
よくある答え
状況を確認のうえ、必要であれば業者に点検を依頼すること。
誰が、いつまでに、何を確かめるのか、どこからが「必要」なのかがありません。
直した答え
気づいて知らせてくれてありがとう。子どものけがに関わるので、費用はかかっても、今日中に業者に点検を頼んでください。(今の判断と理由) 点検が終わるまでは、その遊具を使えないように囲い、入口に案内を出してください。(被害を広げない手) いつ、誰が緩みに気づいたか、その遊具の最近の点検の記録を、今日の閉館までにまとめてください。ほかの2か所の同じ遊具をどうするかは、点検の結果を見て、本社の安全の担当と相談して決めます。(確認の指示と分かれ道) 私が会議に出ている間は、あなたに判断を任せます。安全の担当の連絡先は事務所の一覧にあります。点検の結果は、会議の休憩に読めるよう、昼と夕方にメールで知らせてください。(不在中の扱い)
直した答えでは、緩みの原因がわからないままでも、点検を頼み、遊具を止めるという判断をしています。費用より安全を先に考えた理由も書いてあります。原因がわかったときに変えられる部分(ほかの施設の扱い)は、分かれ道として残しています。
時間が足りないときの短い書き方
演習の終わりが近づき、情報の足りない案件に長く書く時間がないこともあります。そのときは、4つの要素を1行ずつに縮めます。
- 今の判断:「ひとまず受付を止める」
- 理由:「お客さまへの影響がわからないため」
- 確認の指示:「担当の係長に、本日15時までに原因を確かめて報告させる」
- 分かれ道:「問題がなければ明朝に受付を再開する」
4行でも、判断と理由と確認がそろっていれば、何も決めていない答えには見えません。重い案件を空欄で残すより、短くても判断を書くほうが、考えたことが伝わります。
この形式そのものの成り立ちや、なぜ昇格試験で使われるのかは、案件処理演習とはで説明しています。
一人で確かめるときの限界
仮の判断の書き方は、型として覚えられます。ただ、初めて読む案件で、どこが足りない情報なのかに気づけるかは、他人が作った案件で試さないとわかりません。
昇格パスの無料体験では、登録の後に、案件処理演習の1案件を5分で1回練習できます。書き終えると評価票が出て、観点ごとの評価と、根拠になった自分の記述を確かめられます。
個人で申し込んで使え、実名や勤務先の登録は要りません。会社に知らせることもありません(ログインにはメールアドレスか LINE を使います)。初めて読む1件で、仮の判断の4つの要素を書けるか試してみてください。
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