論文の準備で、最初の一文が書けずに止まる人は少なくありません。当サイトで集めた昇格・昇任論文についての知恵袋の質問16件のうち、「何を書けばよいかわからない、書き出せない」は8件でした(2026年10月)。件数は検索語の選び方に左右されるので、よくある悩みの種類として見てください。

書き出しで止まるのは、文章の才能の問題とは限りません。最初の段落で何を伝えるかが決まっていないと、言葉が出てこないことが多いと考えられます(推測)。

この記事では、最初の段落の役割と、入れる要素、書き出す前の準備を説明します。昇格パスは論文を代わりに書くことはしません。比べるための1文の例だけを載せ、そのまま写せる段落の見本は載せていません。

※この記事に出てくる職場や数字は、説明のために作った架空のものです。

書き出しで見られていること

採点する人は、何本もの論文を読みます。最初の段落で、「この論文は問いに答えているか」「何を言いたいのか」をつかもうとすると考えられます(推測)。

公開されている評価の観点の例として、東京都の主任級職選考の実施要綱は、論文を「問題意識、問題解決力、論理性、表現力等」で評定するとしています(令和8年度)。最初の段落に関わりやすいのは、次の2つです。

  • 問題意識:テーマの背景を、自分の職場や役職の目線で捉えているか
  • 論理性:最初に示した結論と、後の本論がつながっているか

書き出しは、うまい言い回しを競う場所ではありません。この論文が何について、どんな結論を言うのかを、早く伝える場所です。

最初の段落に入れる3つの要素

最初の段落(序論)には、次の3つを入れます。字数は、全体の1割ほどが目安です。

  1. テーマに対する自分の結論:何が課題で、何をするのか
  2. その課題が大事な理由:職場や組織にとって、なぜ今それが課題なのか
  3. 本論の予告:このあと何を、いくつ述べるのか

3つ目は、長い論文で特に役立ちます。「取組を2つ述べる」と最初に示すと、採点する人が本論の筋を追いやすくなります。

避けたい書き出し

次のような書き出しは、字数を使う割に、伝わることが少なくなりがちです。

書き出しの型 評価する側の見え方
社会の情勢の長い説明から入る どの論文にも書ける話で、自分の考えが見えるまでが遠い
「〜が重要である」で終わる 重要なのは分かるが、何をするのかが見えない
辞書の定義から入る 問いに答える前に、字数を使っている
決意の言葉から入る 気持ちは伝わるが、課題と取組が見えない

社会の情勢に触れること自体は悪くありません。ただ、触れるなら1文にとどめ、すぐに自分の職場の話につなげます。

設問の言葉を使う

書き出しで迷ったときは、設問の言葉をそのまま使うと、問いに答えていることが伝わりやすくなります。

たとえば、テーマが「あなたの職場における人材育成の課題と、主任としての取組」なら、問われているのは次の3つです。

  • 職場の人材育成の課題(何が課題か)
  • 主任としての取組(何をするか)
  • 自分の職場の話であること(一般論でないこと)

最初の段落では、「人材育成」「課題」「主任として」という設問の言葉を使って、結論を言います。言いかえを重ねると、問いからずれていないかを採点する人が確かめにくくなります。

設問の形ごとの書き出し

論文の設問の形は、試験によって違います。形が違えば、最初の段落で先に伝えることも変わります。

設問の形 最初に伝えること つまずきやすい点
1題を自由に論じる形 結論、その理由、本論の予告 前置きが長くなり、結論が2段落目にずれる
(1)(2)に分かれる形 (1)では職場の現状の認識、(2)では(1)を受けた取組の方針 (2)の書き出しで(1)と違う言葉を使い、つながりが切れる
資料を読んで答える形 資料から読み取った問題と、その意味 資料の数字を写すだけで、何が問題かを言わない
事前に提出する形 結論と、職場の事実の要点 時間がある分、背景の説明が膨らむ

(1)(2)に分かれる形では、(2)の最初の一文で、(1)で挙げた課題の言葉をもう一度使うと、二つの設問のつながりが伝わります。資料を読む形では、数字そのものより、その数字が職場や住民にとって何を意味するかを先に書きます。

書き出しに時間を使いすぎない

会場で時間を計って書く試験では、書き出しに悩む時間がそのまま本論の時間を削ります。最初の段落に使う時間の上限を、あらかじめ決めておきます。

目安を決めたら、その時間で書けなかったときの手も決めておきます。PCで書く形なら、序論を空けて本論から書き、最後に序論を書き足せます。手書きの形では後から行を足しにくいので、序論の行数だけ空けて本論に進むか、メモの「課題の一言」をそのまま最初の文にします。

練習のときに、最初の段落を書き終えるまでの時間を毎回記録しておくと、自分の癖が見えます。毎回長くかかる人は、書く前のメモが足りていないことが多いと考えられます(推測)。

書き出しの前にする準備

書き出しで手が止まるときは、書く前の準備が終わっていないことが多いものです。次の3つが決まっていれば、最初の段落は書けます。

  1. 使う職場の事実:テーマに合う出来事を1〜2つ。数字があれば数字も
  2. 課題の一言:その事実から、何を変えるべきかを一言で
  3. 取組の数と中身:課題に対して、自分の役職で何をするか

この3つを、単語だけのメモで余白に書いてから、書き始めます。材料の集め方と、問題点・課題・解決策の対応表の作り方は、昇任・昇格論文は「書く前」で決まるで説明しました。

序論を最後に書く、という方法もあります。先に本論のメモを作り、本論の結論が固まってから序論を書くと、序論と本論のずれが起きにくくなります。

1文の比べ方(見本の文章は載せない)

比べるために、1文ずつ例を示します。どちらも架空の自治体の窓口の係の話です。

  • 一般論の書き出し:少子高齢化が進み、行政サービスへの期待はますます高まっている。
  • 結論のある書き出し:私の係の課題は、繁忙期に手続きの知識が2人の職員に偏り、待ち時間が延びていることである。

1つ目は、どの職場の論文にも書ける文です。2つ目は、この職場でしか書けない事実と課題が、最初の一文に入っています。

2つ目の文が上手な文というわけではありません。採点する人が知りたい「何が課題か」に、最初に答えている点が違います。

自分の書き出しを点検するときは、次の問いを使います。

  • 最初の2文に、自分の職場の事実か、自分の結論が入っているか
  • 設問の言葉を使っているか
  • 最初の段落を読んだだけで、本論で何を述べるか分かるか

最初の一文がどうしても情勢の話から抜けないときは、論文で「一般論」と言われたときの置きかえの手順が使えます。

架空の例:書き出しで止まった人の直し方

食品メーカーの品質管理の係長Lさんは、「職場の課題と、その解決に向けた取組」というテーマで、最初の一文が書けませんでした。「食の安全への関心が高まる中」と書いては消す、をくり返していました。

Lさんは、書き出しを考えるのをやめ、余白に次のメモを作りました。

  • 事実:検査記録の書き方が人によって違い、確認に1件10分以上かかる
  • 課題:記録の書き方をそろえ、確認の手間を減らす
  • 取組:記録の様式の統一、新人向けの確認表、月1回の見直し会の3つ

このメモができると、最初の段落は、課題と3つの取組を言うだけになりました。食の安全の話は、課題が大事な理由として1文だけ入れました。

Lさんが気づいたのは、書けなかった原因が言葉選びではなく、メモがないまま書き出そうとしていたことでした。次の練習からは、書き出しに入る前に、事実・課題・取組の3行を毎回先に書く、という順番に変えました。

書いたものを見てもらうには

書き出しが問いに答えているかは、書いた本人には見えにくいものです。結論を言ったつもりでも、初めて読む人には前置きにしか見えないことがあります。

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