部下の話を聞いている途中で、解決策が思い浮かぶ。すぐ助言したのに、相手は納得していないように見える。そんなときは、案の良し悪しより、何を確かめる前に案を出したかを振り返ってみます。

助言をしてはいけないわけではありません。必要な事情を聞き、本人の考えも確かめたうえで、案を出す順序を考えます。この記事の方法は当サイトの練習提案です。職場と会話の例はすべて架空です。

解決案が浮かんだとき、前提を書き出す

上司には似た経験があるため、話の途中で原因を推測できることがあります。ただし、今回も同じ原因とは限りません。自分の案が、どんな前提に立っているかを確かめます。

たとえば、仕事が遅いという相談に、作業手順の工夫を勧めようとしたとします。その案は、手順が原因で、必要な情報や権限はそろっているという前提かもしれません。実際には、確認の返事を待っている時間が長い可能性もあります。

案を否定する必要はありません。自分のメモに置き、確かめる問いへ変えます。これなら、思い浮かんだことを忘れず、相手の事情を聞く余地も残せます。

思い浮かんだ助言 先に確かめたい前提 質問の方向
作業の順番を変える 順番は本人が決められるか 動かせない条件は何か
周囲に頼む 頼める人や分担があるか 誰に何を相談しているか
早めに着手する 必要な情報が届いているか 着手前に待つものは何か
やり方を覚える 本当に知識不足なのか どの場面で止まっているか

架空の例:処理が遅い部下に、効率化を勧める

事務部門の上司が、申請処理の遅れを相談された場面です。上司は、自分が使っていた一覧表を勧めました。しかし本人は、すでに似た表を使っていました。

話を聞き直すと、判断が必要な案件の確認先が毎回違い、返事を待つ時間が増えていました。この場合、本人の作業方法だけを変えても、待ち時間の問題は残ります。上司が確認の流れを整理する必要もありそうです。

この例で振り返るのは、一覧表が役立つかどうかだけではありません。処理が遅れる工程を確認する前に、作業の効率が原因だと置いていた点です。案を出す前に、最近止まった案件を一つたどれば、別の事情を聞けたかもしれません。

本人が工夫していたことも確認します。すでに試した方法を知らずに繰り返すと、助言が一方的になりやすくなります。うまくいかなかった理由も、次の案を考える材料になります。

助言を出した後でも、質問へ戻れる

早く案を出してしまったら、無理に押し通す必要はありません。事情を十分に聞けていなかったことを認め、どこが合わないかを確かめます。案を取り下げることを、上司の威厳の問題にしないようにします。

「私の案で難しい点はありますか」と聞く方法もあります。ただし、上司の案を前提に細かく調整するだけでは、根本の事情を聞き逃すことがあります。必要なら、出来事や本人の考えに戻ります。

戻るときに、長い弁解を重ねないようにします。自分の経験を説明し続けるより、相手が話せる問いを一つ置きます。聞き直した内容が当初の案と違っても、その違いを次の対応に反映します。

本人の案を聞くことと、責任を渡すことは違う

「あなたはどうしたいですか」と聞くだけで、対策の責任をすべて本人へ渡さないようにします。本人の工夫で変えられることと、上司が調整することを分けます。

担当者には変えられない手順や分担があるなら、上司の仕事として扱います。本人の案が出なければ、必要な情報を一緒に整理することもできます。答えを持っていないからといって、考えていないと決めつけません。

一方で、上司が全部解決する必要もありません。本人が選べる範囲を示し、試す方法と確認する時期を決めます。助言は、本人の考えを置き換えるものではなく、選択肢を増やすために使えます。

待たずに伝えるべきことは、分けて扱う

危険のある行動や、守る必要のある業務上の条件は、話を最後まで聞くまで放置するものではありません。その場で止める必要があるなら、止めることと、事情を聞くことを分けます。

何を変えられない条件として伝えているかを明確にします。その条件を守ったうえで、困っている点を聞きます。すべてを本人の希望に合わせることが傾聴なのではありません。

健康や法令に関する判断を上司だけで行う話にも広げません。専門的な対応が必要な事項は、所属先の手順や窓口につなぐ前提です。面談の工夫で解決できる範囲を越えないようにします。

自分の経験を話すなら、違いも添える

自分が以前使った方法を紹介することはできます。その際、当時と今回で条件が違う部分も確認します。人員、期限、権限が違えば、同じ方法をそのまま使えないことがあります。

経験談は、相手が試す選択肢の一つとして短く伝えます。その方法を採らない理由が出たら、意欲の不足と結びつけず、条件の違いを聞きます。自分の成功談を説明し切ることが、面談の目的ではありません。

紹介した方法を試すことになった場合は、どこまで試し、何を見て続けるかを決めます。うまくいかなければ調整できる余地を残します。助言をした後も、本人の実際の仕事から学び直す姿勢を持ちます。

助言を引っ込めた後も、相手の話を聞き直してから次の対応を決めます。

助言の前に置く、確認のメモ

練習後、自分が最初に提案した案を書きます。その案の横に、確認済みの情報と、推測で補った情報を分けます。推測が残っていたところが、次回の質問の候補です。

確認する対象は、出来事、影響、本人が試したこと、動かせない条件などです。全部を毎回聞く必要はありません。自分の案を左右する情報から確かめます。

振り返る項目 自分のメモに残すこと
案を出した時点 どこまで相手の話を聞いていたか
案の前提 原因や条件を、誰が確かめたか
相手の反応 合わない理由を具体的に聞けたか
修正した内容 聞いた事情を案に反映したか
分担 本人と上司の行動が分かれているか

次の練習では、提案の直前に一つ質問を置いてみます。「ほかにありますか」を形式的に足すより、その案の前提を確かめる問いを選びましょう。

評価観点の整理は面談演習の評価の観点、聞いた事情を対応につなげる流れは部下面談のコツで確認できます。