建設会社で昇格試験を受ける人の多くは、現場の所長や主任技術者として、工事を無事に終わらせてきた実績を持っています。ところが、面接や論文でその実績を話すと、「工事の説明」で終わってしまうことがあります。

この記事では、工事の実績を、管理職として組織を動かした話に置きかえる方法と、建設業ならではの材料の集め方を説明します。

※この記事に出てくる人物と工事は、説明のために作った架空のものです。特定の会社の試験の中身には触れません。

建設業の昇格試験でよくある形式

試験の形も、何を重く見るかも、会社によって大きく違います。まずは自分の会社の案内で確かめます。よく見られる組み合わせは、面接、論文、実績の書類(自己申告や推薦書)だと考えられます(推測)。会社によっては、案件を処理する演習などのアセスメントを加えるところもあります。

どの形式でも、「どんな工事をしたか」より「その工事で、あなたは何をしたか」が問われやすいと考えられます(推測)。形式の全体像は、昇格試験の形式を知るで整理しています。

工事の実績を組織の成果で語る

工事の話は、規模や工法の説明が長くなりがちです。面接官が知りたいのは、工事の中身より、その中で自分がどう判断し、人をどう動かしたかだと考えられます(推測)。

実績は、次の順で組み立てます。

段 中身
状況 どんな工事で、どんな難しさがあったか(1〜2文)
自分の役割 所長、主任技術者、工区の担当など
自分の行動 何を判断し、誰に何を頼み、どう確かめたか
結果 工期、安全、品質、原価、お客さまの評価など、数字で
学び 次の工事や、後輩の指導に何を生かしたか
  • 弱い言い方:「延べ床1万平方メートルの物流倉庫の新築工事を、工期どおりに竣工させました」
  • 伝わる言い方:「物流倉庫の新築で、途中で発注者の担当の方が替わり、決めていた仕様の確認がやり直しになりかけました。私は、それまでに決まったことを一覧にして新しい担当の方と読み合わせ、その後は週1回の打ち合わせで決定事項を記録に残して双方で確かめる形にしました。手戻りを出さずに、工期内に引き渡しました」

伝わる言い方では、工事の規模より、起きた問題への判断と、相手を動かした行動が中心になっています。

安全の材料

建設業では、安全は面接でも論文でも話題になりやすい材料だと考えられます。そのぶん、「安全第一を徹底した」で終わりやすいところです。

材料にするのは、自分の現場で実際に打った手です。

  • 危ない場面に気づいた仕組み(ヒヤリとした報告を集める、朝礼で前日の気づきを話す)
  • 新しく入った作業員への伝え方(初日に現場を一緒に歩く、など)
  • 安全の指摘を受けたときの直し方と、ほかの現場への広げ方

「事故ゼロ」の実績は、それだけでは運もあると受け止められかねません。事故が起きないように何をしたか、という行動を話します。

よくある話し方:「毎朝の朝礼で、安全第一を全員に呼びかけてきました」

評価する側からの見え方(推測):呼びかけを続けた真面目さは伝わります。ただ、呼びかけで何が変わったのか、ほかの所長と何が違うのかが見えません。

直し方:呼びかけの中身を変えた話にします。たとえば、前日に出た気づきを朝礼で一つだけ取り上げ、その日の作業の場所に印を付けるようにした、という形です。仕組みを変えた後に、指摘の数や気づきの報告の数がどう動いたかを添えると、行動と結果がつながります。

協力会社との調整の材料

建設業の管理職の仕事では、自社の社員だけでなく、協力会社の人たちを動かすことが大きな割合を占めます。直接の部下でない人を動かした経験は、管理職の材料として強いと考えられます。

場面 話せる行動の例
工程の遅れ 職長と話し、作業の順番や人の配置を組み直した
人手不足 早めに必要な人数を伝え、工程をずらして山をならした
職種どうしの取り合い 打ち合わせの場を作り、作業の場所と時間を決めた
品質の手直し 原因を一緒に確かめ、次の工区で同じことが起きない手順にした

協力会社を悪く言う話し方は避けます。相手の事情を聞いたうえで、一緒に解決した、という形で話します。

調整の経験を話すときは、相手が何に困っていたかを一言入れると、聞き手に伝わりやすくなります。たとえば、職長が別の現場の掛け持ちで人を出しにくかった、という事情を先に言い、そのうえで自分がどんな条件を示して頼んだかを話します。相手の都合を踏まえて動いたことが、直接の部下でない人を動かす力として伝わります。

育成の材料

建設業でも、若手の育成は管理職の大事な仕事です。現場によっては、若手が書類の作成に追われ、現場を見る時間が取れないこともあるはずです(推測)。

育成の材料は、次のような形で集めます。

  • 若手に任せた仕事と、任せ方の段階(一緒にやる、やってもらって確かめる、任せる)
  • 書類の作り方を手順にまとめ、若手の作業時間を減らした話
  • 若手が施工の判断をする場面で、答えを言わずに考えさせた話

育成の話は、「任せた」だけで終わると、任せきりにしたように聞こえることがあります。どの段階で一緒に確かめたか、若手が迷ったときに誰に聞ける形にしたかまで話すと、育てる側の工夫が伝わります。育成についての問いへの答え方は、昇格面接の「部下をどう育てるか」が参考になります。

現場の視点と、本社の管理職の視点

所長や主任技術者として優れていることと、課長として部門を預かることは、求められる視点が少し違います。昇格の試験では、この違いを分かっているかが見られることもあると考えられます。

現場の責任者として 部門の管理職として
自分の現場の工期と安全を守る 複数の現場に、人と時間をどう配るかを決める
自分の現場の若手を育てる 部門として、若手が経験を積める現場の割り振りを考える
協力会社と現場ごとに調整する 協力会社との付き合い方を、部門として整える

面接で「課長になったら何をしますか」と聞かれたとき、自分の現場の延長の話だけで終わらないよう、右の列の視点で一つは答えを用意しておきます。

論文での注意

建設業の論文では、働き方の変化に触れることが増えていると考えられます。厚生労働省によると、建設業にも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。原則は月45時間、年360時間です。

論文でこの話を使うときは、制度の説明を長く書かず、自分の現場で何を変えるかに移ります。

  • 書類の作成を、現場の担当から事務の担当に移す
  • 工程の組み方を見直し、休日の作業を減らす
  • 協力会社と、作業の山をならす相談を早めにする

打ち手を書くときは、休日の作業を減らすことが、工期や原価にどう響くかも一言添えます。働き方だけを良くする話に見えると、現場を預かる管理職の答えとしては片側に寄って読まれやすくなります。工程の組み方を変えたうえで、どう工期を守るかまで書くと、両方を見ている人の論文になります。

制度の細かい中身は、会社の決まりや人事の案内で確かめます。論文で数字や日付を書くときは、元の発表で確かめたものだけを使います。

製造業など、近い業種の材料の集め方は、製造業の昇格試験も参考になります。

架空の例:材料の整理表

建設会社の土木部門で、課長代理の試験を受けるKさんは、次のような表を作りました。

項目 Kさんの材料
工事 河川の護岸の改修工事。出水期の前に終える必要があった
難しさ 資材の値上がりで、予定の原価を超えそうになった
自分の行動 購買の担当と同じ性能の別の資材を比べ、発注者に変更を提案して了承を得た。変更の理由と経過を記録に残した
結果 出水期の前に完了。原価は予算の範囲に収まった
安全 新しく入った作業員には、初日に危ない場所を一緒に歩いて伝えた
育成 若手に工程表の作成を任せ、週に一度一緒に見直した
学び 原価の心配は、早く見つけるほど選べる手が多い。次の現場では、着工の時点で値動きの大きい資材を確かめる

この表は、面接の実績の質問にも、論文の材料にも使えます。安全と育成の行は、工事の本筋とは別の話に見えますが、管理職として人を見ていることを示す材料として、面接で聞かれたときに使えます。面接で「発注者が変更を認めなかったら、どうしましたか」と深掘りされたときに備えて、ほかに考えていた手も一行ずつ書き足しておくと、答えに詰まりにくくなります。

一人で練習するときの限界

材料の表を作るところまでは、現場の事務所でも進められます。けれども、工事の話を口に出すと、専門用語や規模の説明に戻ってしまう人は少なくありません。管理職の行動が伝わる話し方になっているかは、問いに答えてみて初めて分かります。

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