専門の仕事を深めるか、人をまとめる仕事に進むか。肩書だけを比べると、どちらも魅力と負担があり、決めにくくなります。まずは、これから増やしたい経験を仕事の場面で並べてみます。
以下は編集部による振り返りの提案です。職種の適性診断や給与比較ではありません。例に登場する仕事や人物は、説明のために作った架空のものです。
「得意」と「続けたい」を別々に書く
得意だから今後も続けたいとは限りません。反対に、まだ不得意でも取り組んでみたい仕事があります。現在の得意分野だけで次の役割を決めると、経験を増やす余地が見えなくなります。
たとえば、難しい問い合わせへの回答を任されている人がいます。回答を調べる時間は好きでも、常に自分だけが窓口になる状況は変えたいかもしれません。その場合、「専門業務を続けたい」と「引継ぎを進めたい」は両立します。
専門職なら人と関わらない、管理職なら専門を使わない、と二つに割り切らないことも必要です。実際に任される仕事は職場で異なるため、制度名から日々の働き方を推測しきらないようにします。
先週の仕事から経験を取り出す
| 仕事の場面 | 面白さを感じた部分 | 負担を感じた部分 | 次に増やしたい経験 |
|---|---|---|---|
| 技術的な不具合を調べた | 仮説を確かめること | 問い合わせの集中 | 調査の進め方を磨く |
| 担当の違う人を集めた | 見方をそろえること | 予定の調整 | 意見が違う場で決める |
| 後輩と手順を見直した | 相手が自分で進めたこと | 説明の準備 | 教え方を試して直す |
表の内容はすべて架空の記入例です。自分の表では、仕事の名称だけでなく「どの瞬間がよかったか」を書きます。会議全体は苦手でも、論点を整理する部分は好きという違いが出てきます。
負担も、その仕事に必ず伴うものと、今の進め方によるものに分けます。調整の負担は、役割分担を変えれば減らせるかもしれません。一度嫌だった経験だけで、今後の選択肢を閉じないための確認です。
架空の例:設計を続けたい担当者
製造部門の担当者は、管理職になれば設計から完全に離れると思っていました。経験表を書くと、設計そのものに加え、若手と案を比べる時間にも手応えがあると気づきます。
一方、会議を増やすことには魅力を感じません。そこで、役職を受けるか断るかの前に、「技術的な確認にどの程度関わる役割か」「育成の時間を何の業務と入れ替えるのか」を尋ねることにしました。
この人が管理職を選ぶと決まったわけではありません。専門の経験を残す条件がなければ別の道も考えます。表の役目は、肩書への漠然とした期待を、具体的な確認事項に変えることです。
次の役割を知るための聞き方
「専門職と管理職ではどちらがいいですか」と聞くと、相手の価値観で答えてもらうことになります。代わりに、知りたい経験に沿って尋ねます。
- 今の役割では、どの判断に一番時間を使っていますか。
- 自分で手を動かす仕事と、人に任せる仕事はどう分かれていますか。
- 就く前の想像と違った仕事はありますか。
- 専門を維持するために、どのような機会がありますか。
相手の個別事情を、自分にも当てはまる制度として扱わないようにします。経験談として聞いた話と、職場の正式な役割説明を別の欄に置きます。人員配置など未確定の話は、決定事項にしません。
小さく経験してから考える
まだ経験がない仕事については、想像だけで好き嫌いを決めにくいものです。可能なら、現在の担当の範囲で試せる小さな機会を相談します。
たとえば、定例の打ち合わせで一つの議題を進行する、後輩と作業後の振り返りをする、といった機会です。権限のない決定を代行する必要はありません。担当を勝手に引き受けず、上司と役割を確かめたうえで試します。
終わった後は、出来栄えだけでなく「もう一度やるなら、何を知りたいか」を残します。うまくできなかったことと、経験を重ねたくないことを、ここでも分けます。
選択肢を二つだけにしない
正式な制度として選べるかは職場で異なりますが、確認する段階では、役職名だけでなく仕事の組み合わせも尋ねられます。専門の確認を担いながら育成にも関わるのか、まず少人数の調整を経験するのか。実際に可能な役割を確認してから考えます。
希望する組み合わせが存在するとは限りません。その場合は、何が欠かせないかを整理します。専門の時間そのものが必要なのか、学び続ける機会が必要なのかで、確認する条件は変わります。役職を選べば自動的に希望の経験が得られる、とは考えないようにします。
経験の棚卸しが偏る場合
直近に忙しい調整があったと、調整の仕事をすべて負担として記録するかもしれません。反対に、うまくいった一日だけで、人をまとめることは常に楽しいと考えることもあります。違う時期の場面をもう一つ加え、どの条件で感じ方が変わったかを見ます。
たとえば、準備の時間がある会議と、急に任された会議では、同じ進行役でも負担が違います。役割そのものへの関心と、準備のない任され方への負担を分ける材料になります。
棚卸しの最後に、好きなことだけでなく「引き受けるなら学ぶ必要があること」も一つ置きます。関心があることと、今すぐ十分にできることは別です。その差を知ると、役割の選択に加えて、必要な支援や学ぶ機会を相談できます。
相談後に表を書き換える
役割の説明を聞いた後は、印象だけで結論を出さず、経験表のどの欄が変わったかを確かめます。専門の仕事を続けられると分かったのか、想像していた以上に調整の仕事があると分かったのかを具体的に残します。
その情報が自分の希望と合うかは、別の判断です。相手が勧めたから選ぶのでも、最初の想像と違うから断るのでもなく、増やしたい経験と必要な条件に戻って考えます。
まだ試したことがない仕事については、結論を急ぐ前に、小さな担当機会を相談できるかも確認します。
いま書く三行
紙に「残したい経験」「増やしたい経験」「確認したい条件」を書き、それぞれ一つだけ埋めてください。「設計」「管理」のような名詞で止めず、「案を比較して理由を説明する」のような動きにします。
三行を読んでも進路が決まらなければ、確認する条件を一つ選びます。答えを得た後で表を書き直せば十分です。自分の選択を正当化するための表ではなく、まだ知らない仕事を知るためのメモとして使ってください。
関連する読み物:昇格試験を受けたくないとき:辞退の前に確かめること、昇格面接のコツ。